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バッカスの勝利プッサン〈バッカスの勝利〉

ディオニュソスの祭礼の禁止

ディオニュソスと信者たちが、テーバイにやってきました。

テーバイ王ペンテウスは頑として、ディオニュソスの祭礼を禁じていました。側近者たちは反対しましたが、王はその進言に耳を貸しません。王は家来たちに命じました。
「この神とうそぶいている指導者を引っ捕らえてまいれ。わしがその化けの皮をはがしてやる」

しかし、ディオニュソスの信者から追い返された家来たちでしたが、1人の信者を捕まえてきました。ペンテウス王はその男に言いました。

「そこの男、すぐ処刑して見せしめにしてやる。
その前に名前を言え。なぜ禁じている祭礼を行うのか?」

この子は神様か!

男は恐れることも無く、淡々と話し始めました。

私の名はアコイテース。
漁師をしておりましたが、航海術を学び船頭をしております。デロス島への航路で、ナクソス島に寄った時のことです。

船員たちが、昼寝をしていた子供を連れてきたのです。その子はいかにも高貴な生まれのようでした。船員たちは親の元に連れて行けば、たくさんのお金がもらえると考えたそうです。

しかし、私は胸騒ぎをおぼえ、祈りました。
「この子は神様か! この子の中には神が宿っているようだ。どうか、私たちの無礼をお許しください」

「俺たちのことは祈らないでいい」
船員たちは、その子を船に乗せようとしました。

「神を恐れぬ仕業で、船を汚させはせぬ」
と私は止めましたが、船員たちに力づくで阻止されてしまいました。

子供のバッカスヨルダーンス〈子供のバッカス〉

子供をだますなんて、名誉なことじゃないよ

しばらくして、目をさました子供が言いました。
「どうして、ぼくは船に乗っているの? この船はどこにいくの?」

「心配することはねぇ、ぼくはどこへ行きたいのかな?」
「ぼくは、ナクソスの家へ帰りたい。連れて行ってくれたら、たくさんお礼がもらえるよ」
船員たちは少年に約束して、私に船をナクソスに向けるよう言いました。

しかし、船員の一人がそばまで来て、私にエジプトへ行くよう目配せしました。エジプトはナクソスとは反対の方角です。子供をエジプトに連れていって、奴隷として売ってしまおうとしていたのです。

少年は悲しそうな声で言いました。
「おじさんたち、こっちはナクソスへの航路ではないよ。ぼくが何か悪いことでもしましたか? 子供をだますなんて、名誉なことじゃないよ」

その途端、船はその場に停止しました。つるが帆に巻き付いたり、木蔦(きづた)が櫂(かい)にからまったりして、動かなくなってしまったのです。

ディオニュソス、テーバイへの凱旋[2]