【永遠と不死の罠】曙の女神エーオースとセミの話
(更新日:2021.03.03)
あなたは〈不死〉になりたいですか?
なれるとしても、
〈もう1つのこと〉をけっして忘れないでください。
ルイ・ジャン・フランソワ・ラルグネ〈ティトノスとエーオース〉
太陽神アポローンの馬車の前を行く曙の女神
夜明けに太陽神アポローンの馬車の前を行くのは、金色の馬車に乗った曙の女神エーオース(オーロラ)。夜の闇を払い、夜明けを告げるのが女神の仕事です。
曙(あけぼの)の名から清く正しいイメージがありますが、じつは地上に美青年を見つけるやいなや連れ去ってしまうという、じつは恋多き奔放な女神なのです。
というのも、エーオースは愛の女神アフロディーテの愛人である軍神アレースと一夜をともにしたからです。怒ったアフロディーテは、彼女を年がら年中人間に恋をするようにしてしまったのです。
ある日、エーオースは、トロイア王プリアモスの弟で美青年ティトノスを連れ去りました。しかし、ティトノスは人間、神に比べれば寿命は短くはかないものです。
イーヴリン・ド・モーガン〈エーオース〉
「ティトノスと永遠に一緒にいたい!」
エーオースはゼウスにお願いして、ティトノスを〈不死〉にしてもらいました。
やがて、エマティオンとメムノンという二人の息子が生まれ、二人は幸せに暮らしていました。
エマティオンはヘラクレスに殺されました。メムノンはエチオピアの王になり、トロイア戦争に参戦。かなりの英雄でしたが、アキレウスに殺されました。息子を忘れられない母親エーオースが流す涙が、今でも朝露の玉になって草の葉に宿っているということです。
ティトノスは〈不死〉になっても〈不老〉ではなかった!
ティトノスは〈不死〉であっても、どんどん老けてしまいました。
エーオースは老いていくティトノスを見るに耐えられなくなり、王宮の一室に閉じ込めます。月日が経ち、彼はひからびて小さくなり、手足も動かなくなりました。そして、とうとうか細い声しか出せなくなってしまったのです。
エーオースはティトノスに見切りをつけ、彼をセミに変えてしまいました。
アッティカの赤絵〈メムノンを抱き上げるエーオース〉