〈ボレアースによるオレイテュイア略奪〉
美貌の2人の姉妹プロクリスとオレイテュイア
プロクネとピロメラの悲劇から、父親のアテナイ王パンディオンは死期を早めました。
パンディオン王の息子エレクテウスが次の王になり、彼には4人の娘がいました。その中でも、美貌の2人の姉妹がプロクリスとオレイテュイアです。
北風の神ボレアスのオレイチュイアへの求婚
プロクリスはケパロスに嫁いで、幸せに暮らしていました。もう一人の娘オレイテュイアに恋をしたのが、蛮族の王テーレウスと同郷(トラキア)の北風の神ボレアスでした。
北風の神ボレアスはテーレウスの野蛮さを知っていましたし、またその最後も知っていました。だから、オレイテュイアとその父エレクテウスには、優しさを持って妻にと懇願していたのです。しかし、彼女と父親は、けっして首を縦に振りませんでした。
ボレアス、元来の粗暴さを現す
とうとう、業を煮やしたボレアスは、元来の粗暴さを現すことになったのです。
「凶暴、怒り、脅し、それが俺の武器なのだ。なぜ、もっと早く、それらを使わなかったのか! ペコペコお願いするのは、俺の流儀ではないのだ。俺は暴力によって雲を追い払い、海を荒らし、硬い樫の大木さえなぎ倒すのだ。西風、東風、南風の兄弟たちと格闘するのは、俺の縄張り大空なのだ。
この俺たち兄弟の衝突で、黒雲から稲妻が光り大音響が響き、大地を揺るがす。この本来の俺の力で、オレイテュイアを妻にするべきであったのだ。エレクテウスを舅にするのに、頭をペコペコ下げるべきではなかったのだ」
オレイテュイアの略奪
こう叫ぶと、北風の神ボレアスは翼を広げました。その羽ばたきは、海の波は逆立てさせ、大地を震えさせました。そして、怯えるオレイテュイアを抱き上げると、北の故郷トラキアへと運んで行ったのです。ついに、ボレアスはオレイテュイアを妃にしてしまったのです。
こうして、ボレアスとオレイテュイアの二人からは、双子の男子が生まれました。カライスとゼテスです。二人が小さいうちは、翼は生えていませんでしたが、青年になると父親と同じように翼が生えてきました。
そして、この二人の青年は、イアソンのアルゴー船の乗組員(アルゴナウタイ)になり、あの怪鳥ハルピュイアを倒すことになるのです。
クェリヌス〈ハルピュイアの追跡〉カライスとゼテス
→アルゴー船の大冒険[2]ヘラクレスのおき去りと予言者ピーネウス
アテナイの人々はボレアースを姻戚による親類と見なすようになりました。アテナイがクセルクセスにより脅かされたとき、人々はボレアースに祈りを捧げ、ボレアースは暴風で400隻のペルシア船を沈めたと伝えられています。
同様の出来事がその12年前にも起こっており、ヘロドトスは以下の様に記しています。
「私はペルシアの船が暴風により難破したというのが本当かどうか断言することはできないが、アテナイの人々はボレアースが以前に彼らを救ったように、この奇跡を起こしたのであると信じている。そして、アテナイの人々は故郷に帰還すると、イーリッソス河にボレアースの神殿を建造した」