〈虹の神イリスと夢の神モルペウス〉
夢の神モルペウスは夜の神ニュクスの子
モルペウスの父は眠りの神ヒュプノス。そして、ヒュプノスの母が夜の女神ニュクス。モルペウスの兄弟には、ポベートールとやパンタソスがいます。3人で夢の支配者オネイロス(複数形)といいます。
夢の神モルペウスは、夢や空想の中に人間のイメージを送ります。ポベートールは動物に働きかけ、悪夢を。パンタソスは無生物に働きかけ、ややこしい非現実的な夢を送ります。
オウィディウス『変身物語』のモルペウス
ケユクス王とその妻アルキュオネーの話の中で、モルペウスは出てきます。
ケユクスは兄の変事とその後に続く異変に不安になり、デルポイのアポロンの神託を伺いに出航します。が、嵐にあい死んでしまいます。
アルキュオネーは、毎日夫ケユクスの無事を女神ヘラに祈っていました。
ヘラには、ケユクスが死んだことがわかっていました。心を痛めた女神は、虹の女神イリスを呼ぶと命じます。
「いとも忠実な私の使者イリスよ。眠りの神ヒュプノスのところに行き、アルキュオネーに今は亡きケユクスの幻を夢に見させて、ことの真相を知らせてほしいのです」
虹の女神イリス、眠りの神ヒュプノスの元へ
虹の女神イリスは、さっそく眠りの神ヒュプノスの元へと向かいました。眠りの神は、黒檀でできた寝台にまどろんでいます。
女神は眠くなるのを恐れ、ヘラの命令を伝えると、すぐにその場を離れ飛び去って行きました。
眠りの神ヒュプノス、夢の神モルペウスを呼ぶ
眠りの神ヒュプノスは、たくさんいる息子たちからモルペウスを呼びさましました。夢の中で死んだケユクス王になって、妻アルキュオネーに真実を知らせるのです。
モルペウスはアルキュオネーの寝台のそばにくると、ずぶ濡れになったケユクスになりかわります。
「いとも可愛そうな妻よ、私がわかるだろうか? 私の死顔は変わってしまっただろうか? 夫ではなく、夫の亡霊が見えるだろう。アルキュオネーよ、お前の祈りはなんの役にも立たなかったのだ。私は嵐にあって死んだ!
もう私を待つのは止めてほしい。さあ、起き上がるのだ、喪服に着がえてほしい。嘆かれもせずに、黄泉の国に行きたくはないのだ」
眠りの神モルペウスはこう告げると、立ち去ったのです。アルキュオネーは呻きながら、両腕でケユクスを求めましたが、空を切るだけでした。これが、眠りの神ヒュプノスの息子、夢の神モルペウスの役目なのです。
アルキュオネーがその後どうなったか、知りたい方はこちら
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