〈パリスのヘレネ略奪〉
トロイアに最初に上陸したものは死すべし
トロイア戦争の際「トロイアに最初に上陸したものは死すべし」との予言がありました。トロイアの地に一番乗りで上陸したのが俊足プロテシラオス。待ち伏せていたヘクトルかアイネイアスの投げた槍で殺されました。
プロテシラオスはピュラケの領主イピクロスの2人の息子の1人。もう1人はポダルケスです。
ポダルケスとプロテシラオスの足が速いことは、波の上を走っているかのようで、麦畑を走っても茎を折れないと言われていたほど。競技会でも優勝していました。
プロテシラオスとラオダメイアの結婚
ラオダメイアは、イオルコス国の王アカストスの娘。イオルコスの過去には『アルゴー船の大冒険』のイアソンがいました。
トロイア戦争に出征する前の日に、プロテシラオスとラオダメイアは結婚。その慌ただしさから、愛の女神アフロディテに感謝の生贄を捧げるのを忘れていました。とうぜん、女神は怒りました。
プロテシラオスの死が伝えられた時、ラオダメイアの父は諦め彼女に再婚するよう話しました。
しかし、ラオダメイアは断固として、再婚の話を拒否。女神アフロディテは、彼女のプロテシラオスへの愛情を燃え立たせます。
夜ごと夫の像を抱きしめるラオダメイア
ラオダメイアは夫プロテシラオスの像を作り、毎日、夫のように世話をし、大切にしていました。夜には、像を抱きしめたり、話しかけたりしていました。
ラオダメイアの召使はその声を聞くと、誰か男と逢引しているのではないかと勘違いし、父親アカストス王に知らせたのです。
父親は怒り、ラオダメイアの部屋に乱入しました。
父親が見たのは、夫プロテシラオスの像を抱いて泣いているラオダメイアでした。父親は戸惑い、哀れに思いました。
「その像は焼き捨てなさい」と言うのせいっぱいです。だが、娘の眼差しは、そうするまいと決意していました。
ラオダメイア〈イメージ〉
黄泉の神々に願うプロテシラオス
黄泉の国では、夫プロテシラオスは「いま一度、愛しい妻のもとへ帰らせてください」と黄泉の神々に願っていました。
黄泉の女王ペルセポネはかつて母親デメテルへの想いをよみがえらせ、プロテシラオスの願いを一時だけとして許してやりました。
掟により、伝令の神ヘルメスが呼ばれました。ヘルメスとプロテシラオスは、ラオダメイアが夫の像を抱きしめている部屋に入ります。彼女には、神ヘルメスは見えません。
ラオダメイアは、凱旋したプロテシラオスが帰ってきたと一途に喜びました。
ラオダメイアの死
しかし、幸福でかつ不幸なラオダメイアとプロテシラオスに、非情な期限がきてしまいました。夫は妻に「事実」をさとらせ、黄泉の国に帰っていったのです。
残されたラオダメイア。
夢か現実か定かではありませんが、彼女に残された道は一つだけでした。プロテシラオスの剣をとると、胸に深く刺したのです。