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ヘクトル、パリスを咎めるクック〈ヘクトル、パリスを叱る〉

メネラオスの優しさを兄アガメムノンが叱る

ギリシャ軍とトロイア軍は、シモエイスとクサントス両河の間で戦っています。

メネラオスはアドレストスを生け捕りにした時、彼は助けを懇願しました。 「わしの家は裕福だから、生かしておいてくれ。私が無事でいることがわかれば、父は莫大な身代金を必ず払うから」

メネラオスの家来がアドレストスを連れて行こうとしたその時、メネラオスの兄アガメムノンが 「なんたる弱気か、メネラオスよ。彼らトロイア人は、このイリオスから根絶やしにしなくてはならぬ」 そう言い放つと、二人でアドレストスをその場で処刑しました。

トロイアの占者ヘレノスの提言

トロイアのプリアモス王の子である占者ヘレノスは、アイネイアスと兄ヘクトルに言います。 「アイネイアスとヘクトルよ、戦いはそなたたち二人にかかっている。全軍を奮起させてくれ。けっして、城門の中に逃げ込ませてはならぬ。

それから、ヘクトルよ、長老や妻たちに伝えてくれ、アキレウスをしのぐ戦いをしているディオメデスを退かせてくれるよう、女神アテナに祈願してくれと。さすれば、神前に子牛12頭をお供えするとも」

アイネイアスとヘクトルは陣中を叱咤激励して回ると、トロイア軍も盛り返し始めました。

「トロイア勢よ、応援に来てくれた方々よ、男の名にかけて戦ってくれ。わしはいったん戻り、長老と妻たちに女神アテナに願をかけるよう伝えてくる。あの鬼神のごときディオメデスをなんとかせねばならぬからな」と言うと、ヘクトルは城門へと向かいます。

ディオメデスとグラウコスは祖父の代からの知り合い

この頃、ディオメデスとピッポロコスの子グラウコスが相対していました。ディオメデスは、グラウコスの勇敢ぶりに感服し、彼に素性を尋ねます。

すると、グラウコスの父ピッポロコスは、あのキマイラ退治で有名なベレロポンテス(ベレロポン)でした。

一方、ディオメデスの祖父はベレロポンテスを20日間も家でもてなしたこともありました。だから、二人は戦わず、お互いの武具を交換しようとし、戦車を降りて友情の誓いを交わしました。

この時、ゼウスはグラウコスの頭を狂わし、ディオメデスの青銅の武具に対して、はるかに価値のある黄金の武具を交換させました。

ペガソスを駆るベレロポン

ヘクトルの母ヘカベ、アテナに祈願する

ヘクトルは城門から中に入ると、母ヘカベに女神アテナへの祈願を頼みます。
「長老と妻たちにアテナに貢物を捧げ、あのディオメデスを引き下がらせるようお願いしてください。私はこの戦争の原因パリスの邸に行きます。あいつが地獄に落ちれば、トロイアの民も安堵するに違いありません。それなのに、あいつは引き下がったまま、戦いに出てこぬ腰抜けです」

長老や妻たちを集めたヘカベは女神アテナの祭壇で祈願します。
「女神の中でもひときわ美しいアテナよ、どうかディオメデスの槍を折り、城門の前で果てるようお計らいください。かなうならば、今すぐ子牛12頭をお供えいたします」

ディオメデスを擁護しているアテナが、この願いを聞き入れるはずはありません。

ヘクトル、パリスを叱る

ヘクトルはパリスの邸に入ると、パリスは豪華絢爛な武具を磨いています。 「お前はなんという男だ。何をぐずぐずしている。今この時にも、兵士はどんどん死んでいる。みんなお前のせいだ!」

「兄者が、私を責めるのはもっともなこと。私は無念の思いを噛みしめていたのです。ヘレネが、再び私を戦場に立たせようとしてくれました。武具をつけるまで、しばらく待ってください。先に行っててくれれば、すぐに後を追います」

ヘレネもヘクトルに謝ります。 「こんな悪女を妹にして、お気の毒な兄上。私は生まれた日に死んでしまったらよかったのです。しかし、今の不幸は神々がそのようにお定めになったのなら仕方ありません。兄上、この椅子にお掛けください。恥知らずな私とパリスのために、兄上は誰よりも心を痛めておりました」

「ヘレネよ、そうしているわけにはいかぬ。私は、今トロイア勢を守らねばと気が急いている。彼らは、私を待っている。もう戻れぬかもしれぬので、これから妻と子に会いに行く」

ヘクトルは最後の別れになるとも知らず、妻アンドロマケと子供に会いにその場を去っていきました。