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パリス〈パリス〉

アンテノルの提言とパリスの反対

トロイアの城内では、知者アンテノルが提言しました。
「トロイアの人々、来援の方々、私ははっきり申し上げたい。ここでヘレネーとその財宝をギリシャに返そうではないか。我々は先の誓約も破っているのでな」

戦いの原因パリスが、すかさず反対します。
「お主は頭がどうかしたのか。私は承服できない。妻ヘレネーを返すつもりはない。ただ、ヘレネーと一緒に持ち帰った財宝は返す。加えて、ヘレネーの代わりに我が家の財宝もつけ加えてもよい」

トロイア王プリアモスがその場を収めます。
「皆の衆、今夜は食事をとって、警戒を怠らず待機してくれ。明日になったら、イダイオスを使いにアガメムノンとメネラオスにパリスの言葉を伝えさせよう。また、死んだ兵士を火葬にするため、休戦する気があるかどうかも確かめさせよう」

パリスの提案に拒否するギリシャ方

あくる朝、イダイオスはアガメムノンの陣屋まで行くと、大声で使いの言葉を述べます。
「アトレウスの子アガメムノンとメネラオス殿、また多くの大将方、プリアモス王の名により、パリスの言葉をお伝えします。ギリシャから持ち帰った財宝はお返しする。さらに、パリス自身の財宝も付け加えます。

だが、トロイアの人々みなが勧めたのであるが、パリスはヘレネーを返すのは嫌だと(ああ、その前にパリスが死んでいればよかったものを)。もう一つ、戦死した兵士を火葬するために、その間休戦しようではないか」

ギリシャの猛将ディオメデスが、それに答えます。
「パリスの財宝などいらぬ。ヘレネーも返さなくてよい。トロイアの破滅はもう決まっているからな」

この言葉に、ギリシャ勢は大歓声をあげます。そして、アガメムノンもこう言います。
「イダイオスよ、聞いた通りだ。わしもそれでよい。しかし、兵士を火葬することに異論はない。休戦の誓約は、ゼウスに証人になっていただこう」

しばしの休戦

イダイオスは自陣に帰り、ギリシャの意向を伝えました。両軍は戦場でお互いの戦死者を識別し、火葬に付しました。その後、ギリシャ勢は老ネストルの提言の防壁と堀を築きます。

その日、ギリシャ方には、あのアルゴー船のイアソンの子ヒュプシピュレの子エウネウスから多量のぶどう酒が、レムノスから運ばれてきました。

この頃、天界では、ポセイドンが腹を立てていました。なぜなら、ギリシャ勢が大きな防壁を造るのに神々になんの相談もしなかったからです。

かつて、ポセイドンとアポロンはトロイアのラオメドン王に防壁を築いてやりました。が、その報酬は支払われませんでした。その後、ヘラクレスもラオメドン王のために防壁を築きましたが、同じく報酬は支払われませんでした。ヘラクレスは、この防壁を粉砕してしまいました。