シモン〈ナウシカア〉
女神アテナは、ナウシカア王女の夢に現れ、洗濯へ行くよう促します。王女は目覚めると父に願い出て、母から食物やオリーブ油を受け取り、女中たちとともに河へ向かいました。
河辺で洗濯をすませ、水浴びと食事を楽しむ一行。やがて、マリ遊びを始めた彼女たちの声により、難破して眠っていたオデュッセウスが目覚めます。
裸のまま現れた彼の姿に、女中たちは驚き逃げますが、ナウシカアだけは動じません。女神アテナの加護により、王女は勇気をもってオデュッセウスと向き合うのです。
アテナ、ナウシカアを河へ洗濯に行かせる
女神アテナは、ナウシカア王女の友人であるデュマスの娘に姿を変え、まどろんでいる王女の夢枕に立ちました。
「ナウシカア、あなたの母君は、どうしてこんなにもだらしない娘をお産みになったのでしょう。あれほどたくさんの立派な衣装を、あなたは放ったらかしのまま。国中の貴公子たちが、あなたを妻にと望んでおられるというのに。夜が明けたら、すぐに洗濯に出かけましょう。わたしもお手伝いいたしますわ」
ナウシカアは目を覚ますと、父アルキノオス王に願い出ました。
「お父さま、弟たちの着物を洗いに河へ行きたいのです。ですから、しっかりした馬車を用意してくださいませ」
「娘よ、行くがよい。すぐに頑丈な馬車を用意させよう」
母アレテは、食物とぶどう酒、そして水浴の後に塗るための上等なオリーブ油を、ナウシカアに持たせました。王女は馬車の手綱を取り、出発します。女中たちがそのあとを歩いてついて行きました。
やがて、ナウシカア一行は美しい流れの河にたどり着きます。女中のひとりが馬を馬車から放ち、水辺の新鮮な草を食べさせました。そして女中たちは洗濯物を河に運び、足で踏んで洗っていきます。
きれいになった洗濯物は、水辺の清らかな石の上に広げて干しました。その後、洗濯物が乾くまでの間に、ナウシカアと女中たちは水浴し、オリーブ油を体に塗り、食事をとりました。
ド・ヴァランシエンヌ〈オデュッセウスとナウシカア〉
娘たちの声に目覚めるオデュッセウス
食事が終わると、ナウシカアたちは歌いながらマリ遊びを始めました。その中でナウシカアの姿はひときわ輝いており、まるでニンフたちの中にあっても際立つ女神アルテミスのような美しさを放っていました。
そのとき、女神アテナはある策を思いつきます。
ナウシカアの蹴ったマリが女中のもとを外れ、河の中へと転がり落ちたのです。女中たちは思わず大声をあげました。その声で、眠っていたオデュッセウスが目を覚まします。
「これは……若い娘たちの声か? それともニンフたちの声であろうか。今度は、私はどのような国にたどり着いたのか。いかなる試練が待っているというのか――」
そう思いながら、オデュッセウスは身を起こします。今の彼は、着物すら持たぬ、助けを必要とするみすぼらしい姿でした。
裸の彼は小枝を折り、その葉で陰部を隠すと、女たちの前に姿を現しました。海水に長く浸かっていたため、その姿はまるで山中の熊か猪のように、見るも恐ろしいものです。オデュッセウスの姿を見るや、女中たちは皆、馬車の陰に身を隠してしまいました。
けれども、ナウシカアだけは逃げませんでした。というのも、女神アテナが王女に勇気を吹き込んでいたからです。