デサブレオ〈オデュッセウスとナウシカア〉
難破して島に流れ着いた英雄オデュッセウスは、神アテナの導きによって、若き王女ナウシカアと河辺で出会います。
最初は裸でみすぼらしい姿だった彼に女中たちは恐れを抱きますが、ナウシカアだけは逃げず、思いやりをもって接します。彼女は食事や衣を与え、父アルキノオス王の館へ案内する段取りを整えます。
アテナの加護により、オデュッセウスはたちまち威厳ある姿となり、ナウシカアの心をときめかせる存在に。やがて王の館への道順を丁寧に伝え、ナウシカアは彼を果樹園に残して町へ戻ります。神々と人間が交差する、美しい出会いの物語です。
助けを求めるオデュッセウス
ただひとり逃げず、すっくと立っているナウシカアの姿は、まるで女神のようでした。オデュッセウスは戸惑いつつも、穏やかに彼女に語りかけます。
「あなたは人間でいらっしゃるのでしょうか。それとも女神様でしょうか。ゼウスの娘アルテミスと見まごうほどの美しさ。私は、かつてこのように美しい方を見たことがありません。あなたの父君、母君、そしてご兄弟姉妹は、世の常の人の三倍も幸せな方々です。あなたの夫となる方は、まさに幸運の人でしょう。
ところで私は、海で難破してから二十日、ようやく昨夜この岸辺にたどり着きました。ですから、あなた様がこの地で最初に出会う方なのです。どのような神が私をこの島へと運ばれたのかもわかりません。また、私の苦難がここで終わるとも思ってはおりません。
それでも、どうか私を憐れんでください。身にまとう衣と、ひとくちの食べ物をお与えくださいますよう」
ナウシカアは、静かに答えました。
「他国の方、お見受けしたところ、あなたは卑しい者でも愚か者でもありません。オリュンポスの主ゼウスは、気まぐれに人々へ幸せを与えるもの。ですから、あなた様も、いずれは幸せになられるでしょう。
さて、わたくしたちの国にいらしたからには、困っている方を助けるのは当然のこと。食事も衣も、何ひとつ不足のないようにいたしましょう。ここはパイエケス人の国で、王はアルキノオス、私はその娘でございます。
(女中たちに)さあ、あなたたち。異国の方に着物とオリーブ油をご用意して、河でお体を洗ってさしあげて」
この方が私の国に住み、私の夫と呼ばれたら
オデュッセウスは、海の潮を洗い落とし、体に油を塗って衣服を身にまといました。すると女神アテナは、彼の背丈を高く、肩幅を広く、髪は美しく巻き、よりいっそう立派な姿に変えました。その容姿はまばゆく光り輝いています。
その姿を見たナウシカアは、思わずうっとりとつぶやきました。
「みなさん、この方がこのパイエケス国に現れたのは、オリュンポスの神々のお導きに違いありません。さっきまではみすぼらしく見えたのに、今ではまるで神々のようではありませんか。
この方が私の国に住み、私の夫と呼ばれるようになったなら、どれほど素晴らしいことでしょう。なんとかこの国に留まってくださらないかしら。さあ、食べ物と飲み物をお渡しして」
何日も口にしていなかったオデュッセウスは、夢中で食べ、飲みました。
オデュッセウス、パイエケス国へ
オデュッセウスが食べ終わるのを見届けて、ナウシカアは馬車に乗り、言いました。
「さあ、異国の方。父の館までお連れいたしましょう。ただし、どうか私の言うとおりになさってください。
町の城壁の近くにポプラの林と果樹園がございます。そこに留まり、中へは入らないでください。そして、誰か町の人が通りかかりましたら、その者におたずねください。
『アルキノオス王のお屋敷へ参りたいのですが』と。
わたくしと一緒に町へ入ると、心ない者たちがうわさ話を立てるかもしれません。
『あの他国の者は何者であろう。王女の夫になるのか。国には貴公子がたくさんいるのに、あの方はこの国の人々を見下しているのでは?』と。
それが私にとって、不面目となることもございます」
さらに、ナウシカアは屋敷に入った後の作法についても、オデュッセウスに告げました。
「屋敷へ入ったら、大広間をまっすぐ通り抜けて、母アレテのもとへ行ってください。そして、母の膝におすがりなさい。母があなたに好意を持てば、きっと故郷へお帰しできるでしょう。なぜなら、母は皆に慕われ、特に父は深く母を愛しているのですから」
ナウシカアは、城壁近くの果樹園にオデュッセウスを残し、静かに町へ戻っていきました。