『オデュッセイア』に登場する怪物は、ただの恐ろしい存在ではなく、オデュッセウスの知恵や勇気を試す試練の象徴でもあります。
トロイア戦争を生き延びた彼は、故郷イタケへ帰る途中、多くの困難に直面しました。その中でも、神々の怒りや運命の波に翻弄されながら戦った怪物たちは、彼の旅を語る上で欠かせません。
今回は、オデュッセウスを苦しめた怪物の中でも特に印象的な「一つ目巨人キュクロプス」「船乗りを惑わすセイレーン」「海の恐怖スキュラとカリュブディス」の3怪物を紹介します。
彼はどのようにしてこれらの怪物の脅威から逃れたのでしょうか? 知恵と勇気で立ち向かった英雄の物語を見ていきましょう!
一つ目巨人キュクロプス(ポリュペモス)
キュクロプスの一人、ポリュペモスは海神ポセイドンの息子。彼の唯一の目を潰したのが、知略に長けた英雄オデュッセウスです。
この出来事により、オデュッセウスはポセイドンの怒りを買い、トロイア戦争後、故郷イタケへ帰るまでに10年もの漂流を強いられることになりました。
神々の怒りは、人間の事情を考慮しません。「理不尽」と思えることもありますが、それが神々の掟なのです。
キュクロプスに関するもう一つの神話が『アーキスとガラテイア[純愛と試練]』です。
オデュッセウスの物語とは関係ありませんが、ここではポリュペモスがガラテイアに恋し、彼女と愛し合うアーキスへの嫉妬から、アーキスを殺してしまうという話が語られます。
>>オデュッセウス、キュクロプスの洞窟の中に[第9歌 前編]
セイレーンの怖さ
「船をここにつけ、私たちの蜜のような歌声をお聞きなさい。聞かずして通り過ぎた者は誰もいないのです。私たちの歌を聞いた者は心を満たされ、知識を深めて帰っていくのですよ」
この甘美な言葉で航海者を誘惑するのがセイレーン。絵画では美しい海のニンフのように描かれることが多いですが、「美しいバラにはトゲがある」というように、彼女たちの足元には無数の人骨が積み重なっています。
しかし、このセイレーンの魔力に打ち勝った者がいました。それがオルフェウスです。
彼はイアソンの『アルゴー船の大冒険』に同行していた際、セイレーンの歌声が響き渡ると、船の舳先に立ち、竪琴を奏でました。その音色はあまりにも美しく、セイレーンの声をかき消してしまったのです。
スキュラとカリュブディス
スキュラは、もともと美しい乙女でした。
彼女に恋をしたのは海神グラウコス。しかし、魔女キルケがグラウコスに横恋慕し、嫉妬のあまりスキュラを怪物へと変えてしまったのです。
スキュラ自身は、自分が怪物になっていることに気づかないまま、通りかかった船の乗組員を6人ずつ食べる恐ろしい存在となりました。
一方、カリュブディスはポセイドンと大地の女神ガイアの娘。食欲があまりにも旺盛で、巨人ゲーリュオーンの牛を盗み食いしたことで、ゼウスの怒りを買い、怪物へと変えられてしまいました。
カリュブディスは一日に3回、海水ごとあらゆるものを飲み込み、吐き出します。その際に生じる巨大な渦が、通りかかる船を飲み込んでしまうのです。
※スキュラとカリュブディスは近くに住んでいるため、神話では常にセットで語られます。
>>スキュラとカリュブディス[オデュッセイア第12歌 後編]
『オデュッセイア』の怪物BEST3[まとめ]
オデュッセウスが旅の中で遭遇した怪物たちは、それぞれ異なる恐怖を象徴しています。
キュクロプス(ポリュペモス)は圧倒的な怪力と神の血を引く存在であり、オデュッセウスは知恵を使って彼を出し抜きました。
セイレーンは、魅惑的な歌声で航海者の心を奪う危険な存在でしたが、オデュッセウスは巧妙な策でその誘惑を乗り越えました。
そして、スキュラとカリュブディスは、通り抜けることすら困難な海の恐怖として、彼の船を脅かしました。
これらの怪物との戦いは、単なる冒険譚ではなく、人間の知恵、忍耐、運命への挑戦を描いたものでもあります。
『オデュッセイア』におけるオデュッセウスの旅路は、ただの帰還物語ではなく、人間が未知の世界に挑む壮大な物語なのです。