〈オレステス、母親とアイギストを殺す〉
アイギストスが館に入ると、すぐにオレステスに刺し殺されます。驚いたアイギストスの小姓は、大声でクリュタイムネストラの名を叫びます。
クリュタイムネストラが館の門の前に現れると、門が開き、オレステスとピュラデスが立っています。その二人の足元にはアイギストスが倒れています。事態を察したクリュタイムネストラはオレステスに命乞いを必死でしますが……
オレステイア三部作 第2作
アイスキュロス作『供養する女たち』③
オレステスとエレクトラ=アガメムノンとクリュタイムネストラの子供
オレステイア三部作とは『アガメムノン』、『供養する女たち』、『慈しみの女神たち』のことです。
コロスとは?
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。
オレステス、姦夫アイギストスを殺す
[アルゴス城門の前]
コロス
ゼウス様
どうお祈りすればよろしいのでしょうか。
今まさにオレステス様がたった一人で、
父アガメムノンを殺した二人に向かいます。
勝利をお与えくださいませ。
(門の中からアイギストスの絶叫が聞こえてくる)
アイギストス
おのれ、やられた。
小性
大変だ!大変だ!ご主人様が、アイギストス様が刺し殺された。クリュタイムネストラ様、どちらにおいでですか?
(クリュタイムネストラ、婦人棟の戸口から出てくる)
クリュタイムネストラ
どうしたのですか!何のための叫びですか?
小性
生きている方を、死んでいる人(オレステスの訃報から)が討ったというのです。
クリュタイムネストラ
その謎かけの言葉、わかりました。誰か武器を持て、勝つか負けるか、決着をつけよう。
(オレステスとピュラデス、館の門から出てくる。その足元にアイギストス)
オレステス
(クリュタイムネストラに向かって)あなたを探していたところです。
クリュタイムネストラ
ああ、アイギストス様、愛しいお方。
オレステス、母クリュタイムネストラを殺す
オレステス
この男が愛しいのですか、なら、同じ一つの墓に埋めてあげましょう。もうけっして裏切ることはできません。
(クリュタイムネストラひざまづき、衣を裂き、胸を出して)
クリュタイムネストラ
待っておくれ、オレステス。お前がたっぷり飲んだこのお乳に免じて。
オレステス
ピュラデス、どうしたものか、母親を殺すというのは。
ピュラデス
アポロン神の予言はどうなるのか、立派に誓ったその真実は。神々を敵に回すより、誰もが敵だと思え。
オレステス
ピュラデス、君は正しい。立派に助言してくれた。
(クリュタイムネストラに)さあ、あの男のそばで、命を取ってあげましょう。
(クリュタイムネストラ、何度も何度も命乞いをする)
クリュタイムネストラ
じゃあ、どうあっても、お前は母親を殺すというのですね。
オレステス
いえ、私ではなく、あなた自身が自分を殺すのです。
クリュタイムネストラ
気をつけなさい、母親の呪いの犬に用心しなさい。
(オレステス、母親を愛人アイギストのそばで殺す)
オレステスに取り憑く復讐の女神エリニュス
コロス
この有様を見るにつけて、二重の不幸を嘆くほかはありません。
オレステス
ごらんなさい。父を殺し、館を奪い劫掠した者たちを。これで、私はアポロン神が命じられたことをやり遂げました。もし父の弟メネラオス様が来られたら、どうしてこの禍いがもたらされたのか、証人になってください。
私は故郷を出て、諸国を流浪しなければなりません。ほら、あすこに黒い衣を着て、ゴルゴンのように蛇の髪がまといついている復讐の女神エリニュスが.....
コロス
しっかりなさい、怖がらないで。大きな勝利を得たのですから。
オレステス
そいつらは幻なんかじゃない。はっきり見えるんです。これは母親の恨みを含む犬どもだ。ああ、アポロン様、こいつらがいっぱい押しかけてきます、目から嫌らしい血をたらしながら。
(オレステスとピュラデス、逃げるように退場)
[終劇]
この悲劇は、同じくアイスキュロス作『慈しみの女神たち』へと続きます。
〈復讐の女神に追われるオレステス〉