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アテナイ近郊のコロノスのオイディプス〈アテナイ近郊のコロノスのオイディプス〉

オイディプス王と言えば、スフィンクスの謎〈朝は四つ足、昼は二本足、夜は三つ足で歩くものは何か?〉を解き、その後、実の母と結婚し、2人の息子と2人の娘をもうけました。

その残酷な事実を知ったオイディプス王は、自ら両眼をえぐり、テーバイを追放されます。 付き添うのは、2人の娘、アンティゴネとイスメネです。 彼らの放浪は、目を覆うほどの悲惨な姿でした。

しかし、オイディプスにはコロノスでやるべき、最後のアポロンの信託の試練がありました。

ソポクレス作『コロノスのオイディプス』①
コロス=アッティカの老人たち

コロスとは?
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。

オイディプス、運命の地コロノスに

[アテナイの北西郊外。背後にエウメニデス女神たちの神域の聖森]

オイディプス
娘よ、我らが着いたこの土地は、何という町であろうか?
アンティゴネ
町を囲む城壁と塔は、まだ遠くにございます。アテナイは知っていますが、ここがどこかは存じません。長い道中でしたので、この石にお座りください。

(コロノスの男、登場)

アンティゴネ
他国の方、ここがなんという町なのかお教えていただけますか。
コロノスの男
その前に、その座からどいてください。あなたは「慈しみの女神たち(他国では復讐の女神※1)」の禁制の場所にいます。
オイディプス
ならば、おれはどかぬ。その名前こそ、おれの運命の合言葉だ。この地はなんというところか。

コロノスの男
この地は、騎士コロノスにちなんだコロノスという。
オイディプス
なんという王が支配しておられるのか。その方の名は?
コロノスの男
テセウス王という。先代アイゲウスのお子様です。
オイディプス
誰か王に使いをやってくれるか。少しばかりの親切を受けられるように。
コロノスの男
では、私が町の方々にお二人のことをどうするか聞いてこよう。その間、ここを動かずにお待ちください。

(コロノスの男、退場)

アポロンの神託による最後の使命とは?

オイディプス
おお、慈しみの女神たちよ。アポロンは、かつておれにこう仰せになった。
さすらいの終わる土地で、あなたは畏怖すべき女神たちの座、宿りの場所を見出すであろう」と。
おれの不幸な生涯を閉じるべきはここだ。

おれを受け入れてくれた者には恵みを、おれを追った者、おれを送り出した者には破滅をもたらす。地震、雷、あるいはゼウスの稲妻が、その徴として現れるだろうと。
アンティゴネ
しいっ! あすこに年寄りたち(コロス)がやってきます。

(身を隠すオイディプスとアンティゴネ)

オイディプスとアッティカの老人たち(コロス)

コロス
我らは女神たちの御名さえ口にするのを恐れているのに、ないがしろにする男が来たという。だが、どこにもおらぬが......。

(オイディプス、アンティゴネに手を引かれ現れる)

オイディプス
おれが、その男だ。
コロス
おお、見るも恐ろしい、聞くのも恐ろい身なりをしている。
オイディプス
どうか、目くらのおれを無法者とみなさないでくれ。
コロス
あなたは、森の神聖な場所に入りすぎている。まずはそこから出てから話すがよい。
アンティゴネ
お父様、土地のしきたりどおりにしなければなりません。
オイディプス
それでは、手を貸してくれ。
コロス
哀れなお人よ。あなたの素性、名前を聞かせてくれ。
オイディプス
おれが誰であるかは、尋ねないでくれ。
コロス
なんですと。
オイディプス
恐るべきは、おれの素性。
コロス
聞かせてくれ。
オイディプス
ラブダコス※2の一族の、哀れなオイディプス。
コロス
あなたがあの人か?ならば、この土地から出て行くがよい。
アンティゴネ
父に我慢がなりませんなら、せめてこの不幸な娘を憐れんでください。神の定めからは、逃れる術はありません。
オイディプス
父と母はおれの足にピンを刺し、おれを殺そうと山に捨てた。そんなおれが、知らずに父を殺し、実の母と交わり、子をもうけてしまった。
この所業、実はおれが被害者なのだ。この嘆願者を助けてくれ、アテナイの名に恥じぬよう。アポロンの神託により、この国の人に利をもたらす者として来たのだから。
コロス
お前の述べた言葉が神託ならば、この地の支配者にその判断を委ねよう。あなたの名前を聞かせよ。
オイディプス
この地の主人はどこにいるのだ。おれの名前は誰が知らせるのだ。
コロス
道中は長い、あなたの名前は知れ渡っているのだから、支配者にもすぐに伝わるだろう。

アンティゴネの妹も加わる

アンティゴネ
おお、ゼウス様。なんと申しましょう。
オイディプス
アンティゴネよ、どうしたのだ。
アンティゴネ
あちらから、目を輝かして妹のイスメネがやってきます。
オイディプス
なんと、まことにイスメネなのか?
アンティゴネ
私の姉妹、もうすぐ声でわかります。

(アンティゴネの妹イスメネ、登場)

イスメネ
お父様、お姉様。やっとお二人を見つけましたが、涙でよく見えませぬ。

オイディプス
おお、我が子よ、わが兄妹※1よ。
お前の血を分けた二人の若者※2はどこで何をしているのだ。

※1 オイディプスとイスメネ(アンティゴネも)は、親子であり、兄妹なのです。
※2 二人の若者とは、オイディプスの子でポリュネイケスとエテオクレスのこと。

オイディプス
おれがテーバイから追い出された時、イスメネよ、この身に関する神のお告げを知らせてくれた。今度は、何を父に知らせに来たのだ?

※1 復讐の女神
トロイア戦争のギリシャ総大将アガメムノンは帰国後、妻のクリュタイムネストラと間男アイギストスによって暗殺されました。アガメムノンの息子であるオレステスは、父の復讐のために実の母を殺しました。その結果、オレステスは復讐の女神に追われ、アテナイで裁判を受けることになりました。裁判ではオレステスは無罪とされましたが、復讐の女神は怒り、アテナイに災いをもたらすと警告しました。そのため、女神アテナは復讐の女神をアテナイで祀り、彼女らは「慈しみの女神」に変わったのです(アイスキュロス作『オレステイア三部作』)。
※2 ラブダコス
ラブダコスはカドモスとニュクテウスの子であり、ライオスの父親でした。ライオスは、オイディプスの父親です。

コロノスのオイディプス② 新神託とテセウスの庇護とクレオンの暴挙