〈息子ポリュネイケスを呪うオイディプス〉
オイディプスは、二人の娘であるアンティゴネとイスメネが戻ってきたことにテセウスに感謝しました。
その後、彼の長男であるポリュネイケスが、父の助けを求めて現れました。しかし、オイディプスは長男や今やテーバイの支配者である弟であるエテオクレスに手を差し伸べるつもりはありません。
オイディプスは全てをアポロンの神託に賭け、ここアテネで身を隠す決意を固めています。
ソポクレス作『コロノスのオイディプス』③
コロス＝アッティカの老人たち
コロスとは？
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。
オイディプスの二人の娘、もどる
（アンティゴネ、イスメネ、テセウスと従者たち登場）
アンティゴネ
神様が、気高いテセウス様にお父様が見えるようにしてくださればよいのですが。
オイディプス
子供たちよ、そこにいるのか？
アンティゴネ
テセウス様が、助けてくださいました。
オイディプス
友よ、あなたが二人を助けてくれたのだ。神々が、おれの願いどおりにあなたとこの土地アテナイに恵みを垂れることを願う。
テセウス
クレオンのように、私は自分の生涯を行為よりも言葉で飾ろうとは思わない。オイディプスよ、あなたに誓ったことは、何一つ果たさなかったことはない。
ところで、ここへ来る途中、耳に入ったことがある。お知恵を借りたい。あなたの血縁の誰かが海神ポセイドンの祭壇に犠牲をささげ、嘆願者として座っているという。あなたと話がしたいそうだ。
オイディプス
おお、友よ、やめてくれ。おれの憎い息子だ。その声は聞くに堪えない、おれをこのさすらいの境涯に追いやったのだから。
テセウス
だが、嘆願者を拒否することはできない。神を尊ぶならばな。
アンティゴネ
お父様、神様がご満足いくように、言葉に耳を傾けるだけで、どんな害がございましょう。
オイディプス
好きにするがよい。だが、友よ、おれの命を守ってくれ。
テセウス
私がいるかぎり、あなたは安全だ。二度繰り返すまでもない。
（テセウス退場）
オイディプスの長男ポリュネイケス登場
（ポリュネイケス登場）
ポリュネイケス
父上、あなたのお世話については、かつては確かに私は人でなしでした。しかし、父上、この嘆願者に何かお言葉をお聞かせいただけませんか。
弟のくせにエテオクレスは、国の人々を説き伏せて、兄である私をテーバイから追い出しました。
そこで、私はアルゴス王アドラストスの娘を妻とし、テーバイ攻めをする勇者７人を集めました。そして、神の言葉を信じるなら、あなたが付いた方が勝利を得るということ。そのために、私はここに来ました。
オイディプス
テーバイをお前が覆すことは、決してあるまい。その前に、お前たち兄弟は、互いに血を流し合うだろう。立ち去れ！
お前は弟の手にかかって死に、お前を追い出した弟を殺すのだ。これが、おれの呪いだ。
〈息子ポリュネイケスを呪うオイディプス〉
コロス
ポリュネイケスよ、あなたがこれまで歩んできた道に感心しません。立ち去るがよい。
ポリュネイケス
ああ、憐れなのは私の旅、私の仲間たちだ。私たちのアルゴスからの出征がどんな最後を迎えることになるのか。私の姉妹たち、父上の呪いが成就したなら、テーバイに来て私の名誉のために埋葬と葬礼を行ってほしい。
アンティゴネ
兄上、国を滅ぼして何の得がありますか。軍勢をアルゴスに戻してください、急いで。
ポリュネイケス
それはもはやできない。また、この呪いの凶報も仲間には知らせない。
アンティゴネ
兄上、それがお覚悟なのですか。
ポリュネイケス
私の望みを死んだ後に果たしてくれ。では、もう生きている私に会うことはないだろう。
アンティゴネ
ああ、なんという悲しいことでしょう。
（ポリュネイケス、退場）
オイディプスの宿命の最後
コロス
よそ者により、新たな災いが来た。空が鳴り響いてきた。
オイディプス
子供たちよ、おれに神の定めた終わりが来たのだ。逃れることはできない。誰かテセウス殿を呼んできてくれ。おれが受けた好意に対して、約束した恩返しをしたい。
（テセウス、登場）
テセウス
どうしたのだ。ゼウスの雷がこのように嵐を巻き起こす時、どんな前兆でも考えられる。
オイディプス
テセウス殿、おれはあなたとこの国に対して約束したことを果たしてから死にたい。神々が私に示している徴が、閃いている。友よ、私がこの世を去るべき場所へ案内しよう。
しかし、その場所のことは誰にも話してはならない。その地があなたにとって百万の盾、永遠の支えとなるように。あなただけがその秘密を守り、命の終わりには長男へと伝えるのだ。そうすれば、テーバイの牙から害を受けることはないであろう。娘たちも一緒に来なさい。
（オイディプス、アンティゴネ、イスメネ、テセウスと従者が退場。コロスのみ残る）
アテナイ市民への伝聞
（使者、登場）
使者
オイディプスは、この世を去ったようです。
コロス
どのようにしてこの世を去ったのですか。
使者
以前、テセウス王と友人のペイリトオスが降り立ったくぼみがありました。それがトリコスの岩となり、梨の木と大理石の墓の間に位置しています。オイディプスはその場所に立ち、娘たちに禊（みそぎ）のための新しい服を着せてもらいました。親子は抱き合いながら泣いていました。
その時、神々が何度もオイディプスを呼びました。「オイディプスよ、オイディプスよ、オイディプスよ。」
オイディプスは近くにいたテセウス王だけを呼び寄せ、娘たちには見せないように急いで立ち去らせました。私たちも娘たちに続いて立ち去りました。
しかし、しばらくして振り返ると、オイディプスはいませんでした。代わりに、テセウス王が手を顔の前にかざしていました。そして、王はしばらくして大地に接吻し、神々の座であるオリュンポスに手を差しのべ礼拝していました。
（アンティゴネ、イスメネ、テセウスの従者が登場。しばらくしてテセウスが登場）
アンティゴネ
テセウス様、私たちをテーバイへ戻してください。兄弟たちが流そうとしている血を止めることができるかもしれません。
テセウス
わかりました。私はあなた方の役に立てる限り、何でもします。
コロス
さあ、もう嘆くのはやめましょう。定めはもう変えられないのですから。
［終劇］
この悲劇は、アイスキュロス作『テーバイ攻めの７将』へと続きます。
コロノスのオイディプス［まとめ］
オイディプスの運命は確かに数奇なものでした。
彼は赤子の頃に捨てられ、その際に足のくるぶしを刺されました。成人してからは、自らの知らぬ間に実の父親を殺し、その後、スフィンクスの謎を解き、実の母と結婚し、子をもうけました。最後には自ら両眼をつぶし、放浪の旅を余儀なくされました。
そして、オイディプスの最後は、生まれたテーバイではなく、他国であるアテナイのために身をささげました。これが彼の運命でした。
最後に、彼が天に召されていく際、彼は何を思っていたのか、具体的な記録はありません。しかし、彼の人生が非常に複雑で苦難に満ちたものであったことを考えれば、彼の最期には多くの感情や思いが交錯していたことでしょう。
