※本ページにはプロモーションが含まれています。

モロー 〈縛られたプロメテウス〉モロー 〈縛られたプロメテウス〉

アイスキュロス作『プロメテウス』三部作

第一作『縛られたプロメテウス
第二作『火を運ぶプロメテウス』(消失)
第三作『解放されるプロメテウス』(消失)

アイスキュロスの作品『プロメテウス』は元々三部作でしたが、残念ながら第二作と第三作は失われてしまいました。

もし第二作と第三作が残っていれば、プロメテウスの全貌が明らかになったはずです。特に第三作が残されていれば、ゼウスの秘密やヘラクレスによって解放される経緯がよくわかったはずなのですが……

プロメテウスはゼウスの運命を知っており、決して明かしません。そのため、ゼウスの命令により、「権力」と「暴力」、そしてヘパイストスの三者によって今、カウカソス山の山頂に鎖で縛られようとしています。

モローの絵画には、そんなプロメテウスの不屈の精神がよく表現されています。

アイスキュロス作『縛られたプロメテウス』
コロス(合唱隊)=プロメテウスの叔母にあたるオケアノスの娘たち
「権力」と「暴力」は、人格を持った登場人物です。
コロスとは?
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。

権力と暴力、ヘパイストスに引ったてられるプロメテウス

[黒海の北、スキュティアの荒野の涯、聳え立つ岩山のもと]

(「権力」と無言の「暴力」、ヘパイストス、プロメテウスを引ったてて登場)

権力
ヘパイストスよ、父神ゼウス の指図どおりに、勤めを果たさなければならぬ。あらゆる技の源である火の輝きを、こいつは盗んで人間どもに与えたのだからな。
ヘパイストス
だが、どうにも気が進まない。やるしかないのはわかっている。プロメテウスよ、なんとかゼウスに和解を申し出ることはできないのか。一度鋼の枷(かせ)に縛られては、二度と自由にはならないぞ!
権力
何をぐずぐずしている。ゼウスの仰せですぞ。
ヘパイストス
分かっている。何もしないと言っているのではない。
権力
さっさと、こいつに枷をかけてやりな。ぐずぐずしているのを父神が見たら大変だぞ。

(ヘパイストス、プロメテウスの手足、胴体を岩山に枷で縛りつける)

権力
プロメテウスよ、いつまでもここでいばっているがいい。「先に考える男」なんてお前を呼んでいるのは、まったくデタラメなことだ。こうなる自分のことさえ、わかっていなかったのだからな。

(「権力」と「暴力」は嘲笑いながら、ヘパイストスは黙ったまま退場)

※ギリシャ語=「pro(先に、前に)」+「mētheus(考える者)」、「先見の明を持つ者」「熟慮する者」などの意

火を人間に与えるプロメテウス〈火を人間に与えるプロメテウス〉

プロメテウスの独白

よく見ておいてくれ!
どのような辱めに身を切りさいなまれつつ、永劫の歳月を私が苦悩の中に過ごしていくか。
・・・
私は何を言っているのか!
何もかも未来のことを私ははっきり知っているのに、何一つ思いがけない禍いが来るわけはないのだ。
・・・
火の源を盗み取り、ウイキョウの芯に満たして人間に渡してやった。あらゆる技術を人間に教え、多くの便利さをさずけた。
その罪を、今しも私は償っているのだ。
・・・
ゼウスの敵として、あらゆる神々からも疎んじられている。あまりにも人間どもを、愛しすぎたとな。
はて、高い空は、軽やかな羽ばたきの音にざわめきたってきて、怖い気もするが。

プロメテウスがゼウス側についた理由

(コロス、空より登場)

コロス
怖いことはございません、親族ですもの。プロメテウス様、恐ろしさに、私たちの眼は涙であふれます。新しい掟でもって、ゼウス様が無法な力をおふるいになり、昔の偉大なティタン神族をけおとしてしまいました。
プロメテウス
私を再び必要とする時がこよう。ゼウスが覇者の地位を奪われるという新しい秘密を私に明かしてもらうためにだ。
コロス
あなたは本当に剛毅なお方。この苦難にも一向にめげず、自由な口をおききになります。しかし、ゼウスは宥めすかしもできない。厳しい心をお持ちゆえ、御身の上を気遣うのです。
プロメテウス
ゼウスのことは分かっている。しかし、あの秘密のために、仲直りと友愛とを私に望んでこよう。
コロス
その次第をすべて、私たちに打ち明けてください。

プロメテウス
クロノス派ティタン神族とゼウス派オリュポス山の神々の戦い「ティタノマキア」の時、私は最善の策を仲間(ティタン神族)に勧めたのだが......。
『力で勝り、かつ暴力を振るう者より、計略で敵を制する者こそ勝利を得よう』とガイアより教わっていた。
だが、ティタン神族は少しも耳を傾けようとはしなかった。だから、ガイアとともに私はゼウスに味方することにしたのだ。

ティタノマキア

【ティタノマキア】オリュンポスの神々vsタイタン

プロメテウスが人間に火を与えた理由

プロメテウス
ゼウスとオリュンポスの神々は勝利した。ゼウスは父クロノスの王座に着くと、神々にそれぞれ褒美を与え、統治の範囲を決めてやった。また人間を滅ぼし、新たな種族を作る予定だった。そのことを気にかける神々は誰一人としていなかった。だから、私は人間への哀れみを先にし、自分がこうなることを気にもかけなかったのだ。
コロス
プロメテウス様、私たちはこの有様を見ないでおけばよかった。胸を痛めるばかりですから。その他に人間にお与えになったものは?
プロメテウス
「人間には運命が見えない」ようにしてやった。
コロス
大変役に立つことを、人間にお与えになったことですね。
プロメテウス
それに加えて、火までも人間に授けてやったのだ。表向きはそれで、私は罰せられているのだがな。
コロス
なんとかゼウス様と和解し、この呵責を逃れる道をお探しなさいませ。
プロメテウス
あなた方は地に降り立って一部始終を人間に話し、私の運命を知ってもらってくれ。