1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

ニオベーの悲哀

子供たちのために嘆き悲しむニオベー
ブルーマールト〈子供たちのために嘆き悲しむニオベー〉

ニオベーは、最後に残った末っ子の娘を抱きしめたまま叫びました。
「ひとりだけは、この一番下の子だけは助けてください。お願いです」

テーバイの王妃ニオベーは、たくさんの誇り--父はゼウスの子タンタロス、母は女神ディオーネー、テーバイ国王夫の名声、類まれな美貌--を持っていました。そして、なにより誇りにしていたのが、7人の息子と7人の娘でした。ですので、誰もがうらやむ幸福な母親になれたはずです。が、ありあまる誇りが不遜な態度をとらせました。

アポローンとアルテミス、その母神レートーを祝う例年の祭りの時です。

黄金と宝石で光り輝いた衣装を身につけたニオベーは、群衆の前で言い放ちました。
「なんとばかげたことであろう!お前たちは目の前に立っている私より、まだ目にしたこともない女神のほうが良いというのか。どうしてレートーなどが崇拝されて、私はなんの敬意も払われないのか?私には7人の息子と7人の娘がいる。が、レートーには2人しか子供がいないではないか。さぁ、お前たちはこんな儀式をやめて、祭りの月桂樹の冠をぬぎ、立ち去るがよい!」

そこで、人々はその言葉に従い、祭りを途中でやめて帰ってしまいました。

それを天界から見ていたレートーは憤慨して言いました。
「私は今日までお前たち2人を誇りにしてきました。大神ゼウス様の妃ヘーラー様を除いては、けっして他の女神に劣らぬと思っています。その私が、今や自分はほんとうに女神なのかと疑い始めています。お前たちが母さんを守ってくれないと、人間たちの崇拝をうばいとられてしまいます。そして...」

息子アポローンは、母がそれ以上言うのをさえぎりました。
「母上、それ以上おっしゃいますな。話は処罰を送らせるだけですから」
そういうと、妹アルテミスとともに矢のように飛んでいき、テーバイの町の塔の上に降り立ちました。

ニオベの子供たちの死
ジャン・フランソワ・ド・トロイ〈ニオベの子供たちの死〉

町の若者たちは、戦争のまねをして遊んでいました。その中にニオベーの息子たちもいました。
長男イスメーノスは手綱を取り二輪戦車を駆っていました。が、空からの矢に射られて、突然「あっ!」と叫び地上に倒れました。もうひとりの息子はそれを見て、戦車を飛ばして逃げようとしました。しかし、矢はなんなく追いついて彼をも殺したのです。
もう2人の息子は、運動場で格闘技をしているところを、1本の矢が一緒に貫きました。それを見ていた2人の兄弟は、走りより助けようとしましたが、彼らもまた射殺されてしまいました。

最後に残ったイーリオネオスは両腕を天にさしのべ「助けてください、神々さま!」と叫びました。アポローンは彼を助けてやりたいと思ったのですが、矢はすでに放たれていて、どうすることもできません。

町は恐怖で混乱しましたが、二オベーには何が起こったのか分かっていました。が、神々がそのようなことをするとは信じられなかったし、憤慨もしていました。そして、夫アンピーオーンはこの打撃に耐えられず、自ら命を絶ってしまいました。

ニオベーは死んだ息子たちに接吻をすると言いました。
「残酷なレートーよ、私の苦悶で、お前の残忍な心を満足させるがいい。それでも、私には7人の娘がいる!」

娘たちは死んだ兄弟の前に集まっていました。その時です、またもや弓の音と矢の走る音が聞こえました。
母を慰めていた娘はその場に崩れ落ち、逃げようとした娘も、隠れようとした娘も、ただおろおろしている娘たちも次々に矢に射殺されてしまいました。
こうして、6人がまたたく間に死んでいったのです。

ニオベーと末娘
〈ニオベーと末娘〉

ニオベーは、最後に残った末っ子の娘を抱きしめたまま叫びました。
「ひとりだけは、この一番下の子だけは助けてください。お願いです」
その願いもかなわず、その娘も死んだまま母の足を抱きしめていました。

子供14人と夫に死なれたニオベー。彼女の神経は麻痺し、風が吹いても髪の毛は動かず、頬には色つやもなく、もはや生きている気配もありません。その場にくずおれたままです。
あの饒舌だった顎も動かず、血液も流れず、首は曲がらず、手足も動かず、とうとう彼女は石になってしまいました。が、その目からは涙が流れています。石になったニオベーは、一陣の風により故郷の山の上に運ばれていきました。今でもそこにあり、止めどなく水が流れているということです。

アポローンの残虐