1話5分で読めるギリシャ神話

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王様の耳はロバの耳

ミダス王とバッカス
ニコラ・プッサン〈ミダス王とバッカス〉アルテ・ピナコテーク(ドイツ)

ミダス王の喜びと後悔
酒の神ディオニュソス(バッカス)の師シレノスが酒を飲んでいなくなりました。農夫たちが酔った彼を、シレノスを崇拝していたミダス王の宮殿へつれていったのです。

シレノスはミダス王の宮殿で10日間歓待されて、11日目に無事に帰ってきました。このお礼に、ディオニュソスはミダス王の願いをなんでも聞いてあげることにしました。
「触れるものはなんでも、黄金に変わるようにしていただきたい」
ディオニュソスは、もっと賢明な願いをすれば良いのにと残念に思いましたが、その願いをかなえてやりました。ミダス王は喜んで、木の枝に触れて金の枝にしたり、リンゴを触り黄金のリンゴに変えたりして、たいそう喜びました。

ところが、食事の時、パンをつかむと黄金のパンに変わり、ワインを飲もうとするとグラスは黄金に変わり、そのワインも黄金に変わりドロッと喉に流れていきました。「これでは、飢え死にしてしまう!」と後悔して、ディオニュソスに何とか元に戻してほしいと救いを求めました。

慈悲深い神ディオニュソスは、救ってやることにしました。
「パクトロスの河の源泉で、頭と身体とをひたして、おまえの罪と罰とを洗い流すがよい」
ミダス王は言われたとおりに、源泉に手と身体を入れるとその力は消えていきました。その時にふれた河の水が砂金に変わり、パクトロス河は金の産地になったのです。

パクトロス川の源泉で行水するミダス
ニコラ・プッサン〈パクトロス川の源泉で行水するミダス〉メトロポリタン美術館

このことがあってから、ミダス王は富と栄華をきらい、田舎に住み、山野の神パーンの崇拝者になりました。
ある時、このパーンはアポローン神に音楽の腕試しをしてみようと、無謀にも言いだしました。山の神トモーロスが審判にえらばれ、音楽の腕試しが始まりました。(一説には、審判はアポローン神のムーサたち)
アポローンの残虐▶

パーンのひなびた葦笛の調べは、パーン自身をも、また信者のミダス王をも満足させました。次は月桂樹の冠をいただき、緋(ひ)色の衣をたなびかせたアポローン神です。左手に竪琴を持ち、右手でその弦をかき鳴らしました。その調べは、森の木も動物も、岩までも耳を傾けるほどでした。

王様の耳は、ロバの耳!
トモーロスは、勝利をこの竪琴の神アポローンへ与えました。みんなも同意しましたが、ミダス王だけは意義をとなえ、その判定にケチをつけました。アポローンは、このような不埒な耳は人間の耳の形をしていてはいけないと、ミダス王の耳をロバの耳に変えてしまったのです。

ミダス王は頭巾をかぶり隠していましたが、髪切りの召使いだけには頭巾を取らざるをえません。「決して秘密をもらしてはならぬ」とミダス王に命令された召使いは、長い間に我慢できなくなりました。毎夜草原に行き、穴を掘り「王様の耳は、ロバの耳!」とささやき、穴を埋めていました。やがて、大きくなった葦が風にゆれると、その秘密がささやかれるようになったのです。

ところで、ミダス王はプリギュアの王でした。
農夫であったミダス王の父親ゴルディアースは、「王は荷馬車に乗ってやってくるだろう」という神託により、プリギアの王になりました。彼は荷馬車を神託を下した神にささげ、その場に車をつなぎとめて固く結び目を作りました。

有名な「ゴルディアースの結び目」です。
「この結び目を解いた者は、アジア全土の王となるであろう」と言われてきました。多くの人々が試みましたが、成功したものはありません。ある若き王も遠征の途中で試しましたが成功せず、とうとうカンシャクをおこし、剣で結び目を断ち切ってしまいました。この若き王が、あのアレキサンダー大王です。