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アガメムノンの妻クリュタイムネストラ〈アガメムノンの妻クリュタイムネストラ〉

ついに、クリュタイムネストラと姦夫アイギストスは、アガメムノンとトロイアの王女カッサンドラを一緒に殺害します。

クリュタイムネストラは、トロイアへ出征する時アウリスの港で娘イーピゲネイアが犠牲になったこと、アイギストスはアガメムノンの父アトレウスの非道を訴えて、この殺害の弁明をします。

オレステイア三部作 第1作
アイスキュロス作『アガメムノン』
コロス(合唱隊)=アルゴス市の長老たち

コロスとは?
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。

アガメムノンの殺害

[夜更けのアガメムノンの宮殿前]

(王宮の中から)

アガメムノン
ううむ、切りつけられたな、急所を深く......。
コロス
静かに。誰かが手傷を受けたと叫んでいる。
アガメムノン
ううむ、またもやられた、二度もひどく。
コロスの長
殿のその叫びからすると、企みが果たされたようだぞ。どうしたものか皆の者、考えを巡らせよう。
コロス
(皆が不安を口にする)
誰かか殺害を触れ回ったらどうか
中に入って、証拠をおさえよう
これから奥方は圧政を行うつもりだ
圧政よりは死んだ方がまし
文句を言っても殿は生き返らない
いや、とても我慢できない

(門が開き、クリュタイムネストラが登場し、足元には血に染まったアガメムノンとカッサンドラが倒れている)

コロス
奥方がこれほど非道なことを。国から追放されるべきですぞ。

アガメムノンの殺害〈アガメムノンの殺害〉

クリュタイムネストラとアイギストスの弁明

クリュタイムネストラ
私は分かる人々にだけに話します。トロイアへ出征する時、アウリスの港で娘イーピゲネイアを、この私の腹を痛めた可愛い子が生け贄に捧げられたとき、この人こそ、追放されるはずだったのではないか、神への冒涜の償いとして。

娘のための正義にかけても、愚行を戒める女神アーテーと復讐の女神らにかけて、私はこの人を生け贄として殺したのです。また、何人もこの王宮へは足を踏み入れさせません。そして、新たな主であるアイギストス様が竃(かまど)の火をおともしなさいます。

(アイギストス、手下を従えて登場)

アイギストス
ああ、正義をもたらす今日、ありがたい光明よ。とうとう、アガメムノンの父アトレウスが、私の父テュエステスを追放した後に、和解と偽り、二人の子供の肉切れを食べさせたあの企みが償われたのだ。あの時三人目の子であり産着にくるまれた私をも追放した償いなのだ。されば、私は正義によるこの男の抹殺の計画者なのだ。
コロス
アイギストス殿、不幸の中で驕るのは良くありません。自ら進んで、この方を殺したと言われるのですか。いずれ裁きを受け、市民の呪いを受け、刑を受けることになるでしょう。
アイギストス
お前らは、船をこぐ舟子たち、下の段にいながらも、上座にいて船を支配する者に向かい、そのようなことを言うのか、老人の身で。
コロス
それなら、あなたはこのアルゴスの僭主になるつもりですか。アガメムノンの子オレステス様がこの国に帰ってきて、奥方共々あなたを殺してくれるでしょう。
アイギストス
そのようなことを言うなら、目にものを見せてやろう。よいか、仲間の者ども、刀を構えよ。死恐れるまいぞ。
コロス
こちらも一身の死を覚悟して、刀を構えようぞ。

クリュタイムネストラとアイギストスvsコロス

(クリュタイムネストラ、両陣営の間に入り)

クリュタイムネストラ
ねえ、愛しい方、お止めください。双方、たくさんの犠牲者が出てしまいます。さあ、長老の方々、お帰りなさいませ、ひどい目に遭わないうちに。
アイギストス
正しい分別を失い、支配者に侮辱を加えるものではないか。
コロス
このアルゴスには、悪人に尾を振るような者は一人もいないぞ。
アイギストス
後日、おまえら皆、思い知らせてやろうぞ。
コロス
せいぜい威張り散らすがいいぞ、雌鳥のそばの雄鶏みたいに。
クリュタイムネストラ
(アイギストスに)あんな役立たずな遠吠えを気にかけてはいけません。今は、私と愛しいあなたが王宮の主であり、アルゴスの領主として統治すればよいのですから。

[終劇]

この悲劇は、同じくアイスキュロス作『供養する女たち』へと続きます。