1話5分で読めるギリシャ神話

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第十三歌:船陣脇の戦い

ネプチューンの馬
ウォルター・クレイン〈ポセイドンの馬〉

(イリアス 第十三歌)

ゼウスに怒ったポセイドンの暗躍

ギリシャ軍とトロイア軍は、壮絶な戦いをくりかえしていた。
この時、ゼウスはトラキアの島サモスの山頂に腰を下ろし、下界を見下ろし安心していた。もはや神々はだれも自分の命令に逆らわず、どちらかに味方することはあるまいと。

しかし、ポセイドンはゼウスに怒り動き始めていた。予言者カルカスとなって、ギリシャ軍を鼓舞してまわった。
「両アイアスよ、おぬしら二人であのヘクトルを船陣から撃退することができよう」
そう言うと、杖で打って二人の全身に力をみなぎらせた。

大アイアス=サラミス王テラモンの子、小アイアス=ロクリス王オイレウスの子

小アイアスが大アイアスに言った、
「テラモンの子アイアスよ。オリュンポスの神が姿を変えて、われらに命じたに違いない。あれは予言者カルカスではない。その身のこなしの速さや我らの力をみなぎらせてくれた」
「いかにも、今のわしは力がみなぎり、ヘクトルと刃を交えたい気持ちでいっぱいだ」

また、ポセイドンは戦意喪失していたギリシャ勢に、
「恥を知れ、若造どもが。苦しい戦いを恐れているなら、この日こそ我らギリシャ勢がトロイア勢に撃たれる日となろう。いくらアガメムノンとアキレウスの仲違いが原因で今の状態になっていようと、安閑としていることは許されぬ」

ゼウスを信じて、ヘクトルは叫ぶ!

「ゼウスが私を決起せしめられたのであれば、ギリシャ軍は私の槍の前に退くしかないだろう」
ヘクトルはこう自軍を勇気づけると、兄弟デイポボスが進みでてきた。

そんなデイポボスにイドメネウスの部下メリオネスが、槍を投げつける。が、槍は楯に阻まれる。しかたなく、メリオネスは槍を取りに陣屋に戻っていった。
その間にも、大アイアスの弟テウクロスは、槍でインブリオスの耳の下を刺して殺した。
一方、ヘクトルがアンピマコス(ポセイドンの孫にあたる)を倒すと、小アイアスはインブリオスの首をはね、ヘクトルの足元に投げつけた。

ポセイドンは孫の死に怒り、イドメネウスを鼓舞した。
「クレテ勢を率いるイドメネウスよ、トロイアに対して言っていた大言壮語はどこへ行った」

この時のギリシャ軍は、イドメネウスをはじめ、メリオネス、アンティロコス、そして総大将アガメムノンの弟メネラオス、アスカラポス、アパレウス、デイピュロスの面々。
対するトロイア勢は、デイポボスをはじめ、アイネイアス、パリス、アゲノルらであった。

両軍は、烈火のごとき勢いで戦っていた。多くの武将の血が流れたのは言うまでもない。

死んだギリシャの武将は、軍神アレスの子アスカラポス、ヒュプセノル、デイピュロス、エウケノルなど。
一方、死んだトロイアの武将は、オトリュオネウス、アシオス、アルカトオス、オイノマオス、アパレウス、アダマス、ペイサンドロス、ハルパリオンなど。
なかでも、アルカトオスはポセイドンにより目をくらませられ、手足も動けぬ状態で、イドメネウスに殺されたのである。

ヘクトルは多くの武将が死んだり、傷ついたりしていることに気がついていなかった。このままでは、トロイア軍は城壁に押し戻されていただろう。そんなヘクトルに、プリュダマスが声をかけた。
「ヘクトルよ、一歩退いて戦況を確認したらどうだろう。それにより撤退するか、このまま攻めるか決めようではないか」
ヘクトルも何か察していたのだろう。普段ならプリュダマスの提案など一蹴していたのだが、
「わかった、今すぐ確認してこよう。ここに主だった武将を引き留めておいてくれ」

ヘクトルは、自軍の中を駆け巡り、その中にいたパリスに尋ねた。
「色狂いのパリスよ、デイポボスはどこにいる、豪勇ヘレノスは、アシオスとその子アダマス、オトリュオネウスは......」
「兄者の探している戦友は幾人かは討たれた。が、デイポボスと豪勇ヘレノスの二人だけは、槍で腕を刺されて自軍に退いた。さあ、兄者、我らを率いてくれ」

こうして、二人はもっとも激しい戦闘の場所にむかった。

大アイアス、ヘクトル再び相対す。

ヘクトルとパリスの前には、大アイアスが立ちはだかった。
「ヘクトルよ、どうした。もっと近くにきたらどうだ。ギリシャ軍がいったん負けたかに見えたのは、ゼウスがふるう悪意の鞭に打たれたからだ。きさまは船陣を粉砕する気でいるかもしれぬが、我らは防いでみせる。いや、それより早く、おぬしらの見事な町トロイアは、われらの手によって破壊されるであろう」

この時、大アイアスの右手に吉兆を示す鳥、天空をかける鷲が飛んだ。ギリシャ勢は歓声を上げた。

ヘクトルは答えた。
「ほざくな、アイアス。今日がギリシャ軍の敗北の日だ。おぬしも船のそばで倒れ、その体は野犬や野鳥の腹を膨らますことになろう」

大アイアスとヘクトルは、ふたたび相対峙していた。

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