1話5分で読めるギリシャ神話

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【第14歌】ヘラ、色仕掛けで夫ゼウスを騙す。

イリアス後半の有名なエピソード。
「このままでは、ギリシャ軍が負ける!」ヘラは焦り、夫ゼウスを色仕掛けで誘惑し眠らせようとします。ゼウスが寝ている間に、ポセイドンにギリシャ軍を助太刀させるためです。そこで、誰にも欲情させるアフロディテの〈ケストス〉を借り、眠りの神ヒュプノスをともない、ヘレはゼウスのところに向かいます。

ゼウスとヘーラー
アンニーバレ・カラッチ〈ゼウスとケストス(乳房の下)をつけたヘーラー〉

(イリアス 第14歌)

アガメムノンの弱気、オデュッセウスら諌める。

ギリシャ軍の防壁はすでに崩れ落ち、トロイア軍に追い立てられていました。老ネストルは、総大将アガメムノンのところに行くことにしました。

そこへ3人とも手傷を負ったアガメムノン、オデュッセウス、ディオメデスが帰ってきます。アガメムノンは、
「ネストルよ、何用か。ギリシャ勢はアキレウス同様わしに遺恨を抱いて戦おうとせぬ。ヘクトルは、わが船団に火を放つまでは船陣から引き上げぬ」

「いかにも。今でも、船陣わきで激しい戦いが続いている」
「ネストルよ、堅固に築いた防壁も濠も役立たなかった。今は、ゼウスの神意がトロイアにあるのだ。わしはもう船を海におろし撤退した方がいいと思っている」
すかさず、オデュッセウスは反対します。
「アガメムノンよ、なにを弱気なことを言う。戦っているさなかに船を海におろせば、トロイアの思い通りになる」
「オデュッセウスよ、そなたの叱責は胸にこたえる。なにか策がないかと迷っているのだ」
それには、ディオメデスが答えました。
「では、傷ついた我々は戦おうとしなかった連中に、再び活を入れ戦わせようではないか」

ポセイドンは、ギリシャ軍に気合を入れています。
「瞬時も休まず、奮戦せよ!トロイア軍は船団と陣屋から逃げ帰ることになろう」

ヘラの色仕掛けとアフロディテのケストス

そんなポセイドンをオリュンポス山から見て、ヘラはほくそ笑んでいました。ついでイデの頂上にいるゼウスを見上げ憎らしく思いました。
「どうすれば、ゼウスを騙せるか」
最上の策は、夫の愛欲をかきたて自分を抱かせ、そのあと眠っている間にギリシャ軍を助けるということでした。

ヘラは香油を全身にぬり、アテネが織りあげた衣装をまとい、こっそりとアフロディテを呼び出します。
「わたしの頼みを聞いてほしい。トロイアに肩入れしているそなたには、ギリシャに肩入れしているわたしの頼みは嫌であろうが」
「位高き女神ヘレよ、わたしにできることならお役に立ちたいと存じます」
「〈愛欲〉と〈慕情〉を貸してほしい。神々の祖オケアノスと母なるテテュスに会いに行こうと思う。二人はわたしの育ての親だから、二人の仲違いをとりなしてあげたい」

アフロディテは、身に付けけていた〈ケストス〉を外すとヘラに渡しました。ケストスは〈愛欲〉と〈慕情〉の他に、思慮深い者の心をもたぶらかす〈口説き〉の力をも秘めているのです。

カリテス-三美神(ラファエロ)
ラファエロ〈カリテス-三美神〉

ヘラ、眠りの神ヒュプノスを口説く。

ヘラはまずレムノス島へむかい、ヒュプノスの助力を願いました。彼はかつてヘラの頼みを聞いて、ゼウスを眠らせたことがあります。ゼウスが眠っている間に、ヘラは暴風を起こし憎きヘラクレスを荒海に漂わせ、仲間から引き離したのです。
ゼウスは目を覚ますと激怒し、ヒュプノスをこの世から消そうとしました。この時、母である女神ニュクス(夜)が彼を救ったのです。

この前例があり、ヒュプノスはヘラの頼みを最初は断りました。しかし、タレイア(繁栄)、エウプロシュネー(歓喜)、アグライア(優美)の三美神の一人を妻にしてあげようというヘラの申し出には、彼も引き受けざるをえません。この時、彼はヘラに騙されないよう、神でさせ破れないステュクス河の水に誓わせました。

ヘラが現れると、ゼウスは欲情します。

ヘラは、まずゼウスに口実を語ります。
「オケアノスとテティスに会いに行く許しを、あなたから得るためにここにきました」
アフロディテのケストスの威力があり、
「会いに行くのは明日でいいだろう。今はここで愛の喜びを味わおう」
さらに、ゼウスは有頂天になり、今のたかぶる気持ちをヘラに伝えます。
「ペルセウスの母ダナエ、ヘラクレスの母アルクメネ、デュオニソスの母セメレやアポロンの母レトに抱いた気持ちより、また初めての時のヘラよりも今のヘラにどうにもならぬ気持ちにさせられたのだ、だからな...」

「ここで愛の契りをしたならば、オリュンポスの神々に見られてしまい、恥ずかしくて館に帰れません。何と言われることか...。どこか秘めた寝所はありませんか」
「見られることなぞ案ずることはない。わしが厚い黄金の雲を周りにめぐらす」
こうして、ゼウスはヘラと交わり満足して、ヘレの思惑どおり眠りに落ちました。

ゼウスを眠らせた眠りの神ヒュプノスは、地上に降りていくとポセイドンに告げました。
「ヘレが愛の交わりをした後、ゼウスには深い眠りをふりかけておいた。ポセイドンよ、今こそギリシャ軍を奮起させ、彼らに勝利の栄誉をあたえられるがよい」
ポセイドンは戦いの第一線に躍りでると
「アキレウスがいなくても、最大の楯と輝く兜をかぶり、手に槍を持ち突撃するぞ。わしが先頭に立つ」
すかさずアガメムノン、オデュッセウス、デュオメデスは傷をものともせず戦列を整えます。

大アイアス vs ヘクトル、再び戦う。

一方、トロイアの戦列を整えるのはヘクトル。彼はアイアスに向かい真っ先に槍を投げます。直後ヘクトルは味方の中に下がろうとしました。が、楯で槍を防いだアイアスは大石を持ち上げ、すかさずヘクトルに投げつけました。ヘクトルは首と胸の間に大石を受けると、地に倒れ気を失ってしまいました。ギリシャ勢は、ヘクトルを捕らえるべく多くの槍を投げつけました。が、アイネイアス、アゲノル、サルペドン、グラウコスらが楯をヘクトルの前に並べました。ヘクトルは助けられ、戦車まで運ばれました。

彼らは清きクサントス河までくると、へクトルを車から降ろし、水をかけました。ヘクトルは目をひらき膝をついて座りましたが、黒い血を吐き、また気を失いました。
こうして、ギリシャ軍はヘクトルなきトロイア軍に襲いかかったのです。戦いは白熱し、両軍の名だたる武将が多数死んでいきました。

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