1話5分で読めるギリシャ神話

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第九歌前編:アガメムノン、苦渋の決断をする

アガメムノンの使節
ドミニク・アングル〈アガメムノンの使節〉

(イリアス 第九歌)

「我らは故国アルゴスへ引き上げよう」

ギリシャ軍は、身も心も凍らす「ポボス(敗走)」の半侶「ピュザ(恐怖)」に襲われ、みな悲嘆に打ちひしがれていた。

落胆したアガメムノンは、告げた。
「我らは故国アルゴスへ引き上げよう。ゼウスは、トロイアから凱旋するという約束を反故にして、多数の武将を失わせ、故国に帰れという」

しばし、沈黙......

ディオメデスの反論

ディオメデスは語った。
「アトレウスの御子アガメムノンよ、私はあなたの思慮を欠いた意見に反論する。ギリシャ軍はそんなにも脆弱か。みな、トロイアを完全に打ちのめすまでは踏みとどまるであろう。少なくとも、私とステネロスは最後まで戦う」
すると、老ネストルも語った。
「アガメムノン王よ、今夜は食事をとり、最もよい策を練ろうではないか」

アガメムノンは陣屋に名だたる長老を集め、夕食を共にした。
老ネストルが、口を開いた。
「アガメムノン王よ、わしの最善の策を申し述べたい。あなたは、アキレウスが怒るのも構わず、プリセイスを奪われた。われらにとって、不本意であった。今からでも遅くはあるまい。彼の喜ぶ贈り物を与え、なだめたらどうだろう」

アガメムノン、苦渋の決断をする。

「ご老体、その通りだ。わしは思慮を失って、過ちを犯した」
アガメムノンはそう言うと、アキレウスへの数々の贈り物を列挙し、さらなる贈り物をあげた。

「レスボス生まれの美女7人と、はっきり言うがまだ手をつけていないプリセイスも返す。また、トロイアを攻略した暁には、トロイアの美女20人、アルゴスに帰った時には息子オレステス同様に扱い、娘3人のうち好きな子も与えよう。さらに栄えある7つの町も付け加えよう。アキレウスもここで折れて、わしに従わなければならない」
アガメムノンは、最後に自分が王であることを強調した。

老ネストルはアキレウスへの使者としてアイアスとオデュッセウス、先導はアキレウスの傅役(もりやく)老ポイニクス、伝令オディオスとエウリュバテスの名をあげた。王の許可を得てから、彼らはすぐにアキレウスの陣屋へ出発した。

使者、アキレウスの陣屋に着く。

アキレウスはパトロクロスを脇に竪琴を奏でていた。
「ようこそ、お出でなされた」と、食事の準備をした。

まず、オデュッセウスが話し始めた。
「アキレウスよ、今はこうしてうまい食事を取っている場合ではないのだ。ゼウスはトロイアに加担して雷火を閃かせ、ヘクトルの軍勢は船陣の前で野営し、われらはトロイアの地で果てるのが運命か心配なのだ。

友よ、今こそ起ち上がってくれ。お主の父ペレウスが出発の日にこう申したではないか。『わが子よ、高ぶる気持ちは抑えねばならぬ。温和な気持ちを保つことが大切なのだ。みなから尊敬されるように心がけねばならぬ』怒りはわすれてくれ。そうすれば、アガメムノンはそれ相応の贈り物を用意すると約束した。それは...(オデュッセウスは、アガメムノンの贈り物を列挙した)

それでも、アガメムノンが憎いというなら、疲れ切っているわれらを憐れんでくれ。ヘクトルは狂気に捕らわれている。自分に敵する勇者は、ギリシャ軍には一人もいないと自惚れている」

第九歌後編:アキレウスの怒り、静まらず】へ続く

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