1話5分で読めるギリシャ神話

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街の公認乞食イロス

乞食イロス
シャガール〈オデュッセウスと乞食イロス〉

〈オデュッセイア 第十八歌〉

「この老ぼれ!」

この地の公認乞食ともいえるイロスはオデュッセウスの館に入ると、ケンカ腰でオデュッセウスをののしった。食事を取っている求婚者たちには良い見世物となり、二人をあおり立てる。しかたなく、オデュッセウスはボロ着をまくり、ケンカの準備をした。その年に似合わない逞ましい腕と足を見ると、さっきの勢いは何処へやら、イロスは怖気付き、後ろへ下がり始めた。が、意地の悪い求婚者たちは、そうはさせなかった。

あきめたイロスは先制攻撃をしかけ、オデュッセウスの右肩を打ったが、オデュッセウスはイロスの顎に強烈な一撃を与え、かれは床にのびた。
求婚者たちは、勝ったオデュッセウスに声をかける。
「他国のものよ、一番良い肉を授けよう。これからは、大食いイロスが、物乞いしなくなるからな。こやつは、ギリシャ本土のエケトス王のもとに送ってやろうではないか。この王は、誰彼の別なく人間をみな不具にしてしまうそうだ」

ペネロペイア、二階より姿を現わす

その時、ペネロペイアが二人の女中を連れ、広間に姿を現した。その美しさに求婚者たちは「この女と寝たい」とみな思った。それもそのはず、女神アテーナが彼女の心労をとりのぞき、化粧をほどこし、ふくよかに見せていたからだ。

ペネロペイアは、まず息子を叱った。
「テレマコスよ、何たるていたらく。この館で他国のものが、このような目にあうのを止めることもできぬとは。世間の目には、この家が不面目に見られよう」
「母上、お怒りはごもっとも。でも、ここにいる求婚者たちが、なんやかや口を出して、私を妨げるのです」
テレマコスは、口惜しかった。

ペネロペイアは、次に求婚者たちに抗議した。
「口惜しく思うのは、あなたがたの求婚の仕方が、しきたりと違っていることです。本来は、結婚する女の身内をもてなしたり、見事な贈り物をします。あなた方のように、求婚する女の家の財産を食いつぶすようなことは決してしません」

これを聞くと、あせった求婚者たちはみな召使いを自分の家に行かせ、豪華な贈り物を持ってこさせた。それを確認すると、ペネロペイアは二階に引き上げた。

求婚者と情を通じていた性悪女中メラント

夕闇がせまり、女中たちが松明を灯し始めた。そこで、オデュッセウスは女中に言った。
「食事のお礼に、わしが火を灯すので、奥方様の元に行きなさい」
すると、求婚者の一人エウリュマコスと情を通じていた女中メラントが、オデュッセウスをののしった。
「酒を飲みすぎたせいか、はたまたイロスに勝ったので、のぼせあがっているのか。いつまで、ここにいるつもりだ!」
「この恥知らずの牝犬め、テレマコス様におまえの雑言をお話しするぞ」
その言葉に、女中メラントは恐怖のあまり、ふるえながら広間を出ていった。
※メラントは、第十七歌に出てきた性悪な山羊飼いメランテウスの姉妹です。

エウリュマコス、足台をオデュッセウスに投げつける

オデュッセウスが計画を思案しているのを見て、女神アテーナはオデュッセウスの気をもっと高ぶらせるため、エウリュマコスに彼を嘲笑させる言葉を吐かせた。
「松明の光が、他国者の頭から射しているとしか思えぬ。なんせ、彼の頭には毛が1本もないからな」
求婚者たちは、みな笑った。オデュッセウスは、それに答えて
「エウリュマコスよ、あなたは無礼で残忍なお人じゃ。腰抜けどもと付き合っているから、ご自分をえらく思っているのだ。もし、オデュッセウス様がお帰りになれば、そなたは真っ先に殺されてしまうだろう」
「口減らずの雑言を並べ立て、イロスに勝ってのぼせ上がっているのか」
こう言うと、エウリュマコスは足台をオデュッセウスに投げつけた。彼は難なく足台をよけると、足台は酒を酌む小姓にあたった。

テレマコス、奮起する

さすがに、テレマコスも今までとは違い、敢然と求婚者たちに向かい言い放った。
「すでに十分飲食されたからには、帰って眠られよ」
一同は、テレマコスが大胆な口をきいたので唖然となった。そんな中、求婚者の中でも良識あるアンピノモスは告げた。
「テレマコスの言い分は、もっともである。他国の者に乱暴するのは、もう止めようではないか。みな神に献酒して、家に帰り眠ろう」

こうして、求婚者たちはオデュッセウスの館から立ち去っていった。