1話5分で読めるギリシャ神話

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はじめて性転換した女カイニス

ネプチューンとカイニス
ヨハン・ウルリッヒ・クラウス〈ポセイドーンとカイニス〉『変身物語』12巻への挿絵

ポセイドーンの子、不死身のキュクノス

けっして槍や剣では死なない、トロイアの将キュクノス。アキレウスは、最後には彼の首を絞めて殺した。そして、武具をはぎ取ろうとすると、鎧の中は空であった。ポセイドーンが、すでにキュクノスを白鳥に変えたからだ。

アキレウスはアテーナ女神に牝牛を捧げてから、宴会を開いた。
話題は「なぜ、キュクノスの体が槍や剣をはじくのか?」みな不思議に思っていると、老将ネストールが話はじめた。

「今の時代に、体が槍や剣をはじくはキュクノスだけだ。しかし、わしは昔テッサリア生まれのカイネウスという男に出会った。この男の体は、同じように槍や剣をはじきかえした。オトリュスの山に住んでいて、その勲によって有名であった。体に傷を負わないのも不思議だがな、みなの衆、驚きなさるな。実はこの男は、生まれてきた時は女だったのだ」
「えっ!」
一同みな驚いて、その話を聞きたがった。アキレウスは問うた。
「能弁な老人よ、当世の知恵者よ。みんなが聞きたいと望んでいるので、話してください。どうして、女が男になったのか?その男は、最後はどうなったのでしょうか?」

エラトスの美しい娘カイニス

老将ネストールは、語りはじめた。
「エラトスの娘カイニスは、美貌のほまれも高く、テッサリア一の美しい乙女であった。多くの求婚者が彼女を妻にと願ったが、誰もその願いはかなわなかった。アキレウスよ、そなたの父ペレウスも、そなたの母テティスと婚約していなければ、求婚しただろう。
ともかく、カイニスは誰とも結婚しようとしなかった。

ある日のことだ、彼女は誰もいない海岸を歩いていた。そこへ、海神ポセイドーンが現れて、彼女を強引に手込めにしたのだ。合意の上とも言われているがな。ポセイドーンはこの情事に満足すると、彼女にこう言った。
『おまえの願いは、すべて叶えよう。なんなりと言いなさい』
カイニスは、こう答えたのだ。
『こんなひどい目にあったので、せつに願うことがあります。二度とこんな目にあわないよう、女でなくしてください』
ポセイドーンは、その願いを聞きいれた。さらに、どんな刃物によっても死なない体にしてやったということだ。男になったカイニスは、〈カイネウス〉と名前を改めた」

ラピテース族とケンタウロス族との戦い
ルカ・ジョルダーノ〈ラピテース族とケンタウロス族との戦い〉エルミタージュ美術館

ラピテース族とケンタウロス族との戦い

「ラピテース族の王、テーセウスの友ペイリトオスとヒッポダメイアの結婚式の時のことだ。ケンタウロス族が酔って暴れ出した。花嫁ヒッポダメイアはじめ、そこにいた女性たちに欲情したのだから、けしからん。大混乱になってな、ラピテース族とケンタウロス族の争いになった。カイネウスの活躍は凄まじく、多くのケンタウロス族を倒した。

そんなカイネウスの前に、ケンタウロス族ラトレウスが現れ言い放った。
「やい、カイニス!おれ様からみれば、おまえは女にすぎない。家に帰って食事でも、着物でも作っているがいい。争いごとは男の仕事だ。わかったか!」
ラトレウスは、カイネウスに槍や剣で挑んだが、反対にわき腹をえぐられてしまった。

それを見ていた他のケンタウロス族が大勢、カイネウスを囲み、槍や剣を突き出した。が、カイネウスを傷つけることはできなかった。
『たった一人に負けるとは。俺たちがヘーラー女神とイクシオンの子だというのに、これでは大いなる恥辱!もはや槍や剣がダメなら、大木で押しつぶしてしまおう』そう言うと、みんながみんなオトリュスの山の木々をぜんぶ引っこ抜いて、カイネウスに投げはじめた」

カイネウスの最後

「さすがのカイネウスもな、少しの木の時はなんとか凌いでいたが、雨あられと降ってくる大量の木々に埋まってしまった。もはや、息もできなくなるほどだ。
結局、カイネウスがどうなったのかは分からなかった。そのまま奈落に落ちたのだとの説もあるが、予言者モプソスは否定した。『わしは木々の山の中から、金色の鳥が飛び出すのを見た』
実を言うとな、わし(老将ネストール)もこの金の鳥を見たのだ。あとにも先にもこの時だけだったがな」

(オウィディウス「変身物語」より)