1話5分で読めるギリシャ神話

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イーオー

ヘーラー、ゼウス、イーオー
ジョヴァンニ・アンブロージョ・フィジーノ〈ヘーラー、ゼウス、牛のイーオー〉

白い牝牛に変身させられたイーオー
河の神の集いにイナコスだけは来なかった。娘イーオーが消息を絶って、生きているか死んでいるか分からなかったからです。

数ヶ月前、水の精イーオーが河で水浴びをした後のこと。
「これは美しい娘さん、暑いのであの森の木陰で休んだらどうだ。ひとりで森に入るのが怖いのなら、この私じつは神なのだがご一緒しよう。神といっても、あのオリンポスですべての神を統べる、雷電をなげる神なのだが...」
好色の神ゼウスと分かって、イーオーは逃げ出しました。ゼウスは黒雲をおこし逃げられないようにし、娘をとらえ犯しました。

天上から地上を見ていたゼウスの妃ヘーラーは、すぐにピンときました。天上に夫がいない、昼なのに一部だけが黒雲に被われている。また、浮気の虫が出てきたのに違いないと。地上へ降りて黒雲を追い払いました。

ゼウスもヘーラーが来ることは分かっていたので、イーオーを美しい白い牝牛に変えました。
ヘーラーは夫に尋ねました。
「これは美しい牝牛ですね、どこからきたのでしょうか、誰の所有物でしょうか?」
「大地から湧き出るように生まれた珍しい牝牛なのだ」
「では、私にくださいませ」
ゼウスは、拒むことはできなかった。

アルゴスの監視
ヘーラーは牝牛を手に入れたのは良かったが、夫がいつまたこの牝牛、いや娘のところに来るのは明らか。そこで全身に百の目を持つ「普見者(パノプテース)」アルゴスに監視を命じました。百の目は一度に二つの目しか眠らないので、見張りの任務にはピッタリ。アルゴスは牝牛に草を食べることも川の水を飲むことも許しましたが、夜には首を鎖でしばり、一本のオリーブの木に繋いでいました。

イーオーの父イナコスは牝牛に優しく草を差し出し食べさせてくれました。また、彼女の姉妹も体をなでてくれました。しかし、父も姉妹もこの美しい白い牝牛がイーオーだとは分かりません。イーオーも話すことはできません。話そうにも、自分にも恐ろしい「モォー」という叫び声しか出せません。困ったすえに、脚で川辺の砂に「イーオーです、ゼウスに様に」と書いていました。
「あぁ、なんということか!ゼウスに変身させられていたのか!お前がイーオーなのか!」
しばらくは、イーオーは「モォー」と返事をするだけではありましたが、親子姉妹の話はつきません。

イーオー、姉妹、父親
ビクターサントノーレ・ヤンセンス〈イーオーの姉妹と父親〉

イーオーの救出
そうこうするうちに夕方になると、非常にもアルゴスはイーオーを山に連れ帰りました。さすがにゼウスもこの光景をみて、哀れに思いました。ヘーラーに気づかれないようヘルメースを呼び出すと、イーオーの救出を命じたのです。

ヘルメースは地上に下りると、羊飼いをよそおい、アルゴスに近づきました。長話をしたり、得意の葦笛を吹いたりして、怪物を眠らせようとしたのです。だが、アルゴスの百の目は、全てが一緒に閉じることはありません。
あげくのはてに「その草の笛は珍しいね。見たこともない、どうしたのかね」と尋ねてくるしまつ。ヘルメースはしかたなく、長話をはじめました。

葦の笛シューリンクス
「シューリンクスというニンフがいてね。狩の女神アルテミスと同じように男嫌いでね、女神にも似ていて美しくもあった。ある日、獣神パーンに言いよられて、逃げて、とうとう川にまで来てしまった。もう逃げられないと思った彼女はね、どうしたと思う?わが身を変えてほしいと仲間のニンフたちに願ったんだ。もちろんニンフたちはその願いをききいれた。パーンが彼女を抱きしめるとね、なんと葦に変わってたんだよ。パーンはがっかりしてね、ため息をついた。すると、その息が葦の茎の空洞をふるわせ、美しい調べを奏でたんだ。それで、パーンは葦の茎の長いのや短いのを並べて笛を作った。それで、葦の笛は〈シューリンクス〉と呼ばれるようになったってわけさ...」

ヘラとアルゴス
ルーベンス〈ヘーラーとアルゴス〉

アルゴスの殺戮者と孔雀
長話をしていたヘルメースは、ふとアルゴスを見ました。とうとう、その目はすべて閉じられていたのです。すかさず、彼は持ってきた剣でその首をたたき落としました。こうして、ヘルメースは「アルゲイポンテース(アルゴスの殺戮者)」といわれるようになりました。女神ヘーラーは血の中から百の目を拾い上げ、お気に入りの孔雀の羽に飾りつけました。

アルゴス殺しのヘーラーの怒りはゼウスではなく、イーオーに向けられました。狂乱の女神を差し向け、彼女の目と心を狂わせたのです。イーオーは、世界中を逃げ回りました。途中、スキュティアーの岩山に縛り付けられたプロメテウスにも出会いました。プロメテウスは、イーオーの13代目の末裔ヘラクレスが自分を解放するだろうと予言しました。イーオーは最後にナイル川のほとりにたどり着きました。

ゼウスは浮気はもうしないとヘーラーに誓い、イーオーを許してくれるよう頼みました。イーオーは水の精にもどると、この地エジプトでゼウスの子エパポスを生み落としました。また、豊穣の女神デーメーテールの像を建てたことから、エジプト人はデーメーテールとイーオーをイシスと呼んだといわれています。