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アイサコスとヘスペリエ2〈アイサコスとヘスペリエ〉『変身物語』の挿絵

トロイア王子アイサコス

アイサコスは、トロイア王プリアモスの最初の妻アリスベーの子。アリスベーの父メロプスから夢占いを教えられました。

ある日、アイサコスはプリアモス王の第2の妻ヘカベがパリスを生む前、燃え木を生み、これが全トロイア市を焼き尽くすという不吉な夢を見ました。

それを聞いたプリアモス王はアイサコスを呼び、その夢占いをさせました。
「父よ、今度生まれる赤子は国の破滅になりますので、捨ててください」

こうして生まれたパリスは、召使いアゲラーオスにイーデー山に連れて行かれ捨てられました。

その後、パリスは5日間クマに育てられました。アゲラーオスはそれを確認すると、パリスを自分の農場につれていって育てました。パリスはよく農場の羊を守ったので、アレクサンドロス(守る男)というあだ名がつきました。

河神ケブレンの娘、ニンフのヘスペリエ

ところで、アイサコスは不思議な運命に見舞われなければ、ヘクトルと同じくらいの名声を得たと言われるほどの才覚の持ち主です。『変身物語』によれば、彼の母はアリスベーではなく、河神グラニコスの娘アレクシロエです。

アイサコスは都市や宮殿を嫌って、へんぴな場所や田園に住むことを好んでいました。トロイア人の集まりにも、めったに顔を出しません。かといって、野暮ったい田舎者でもありません。彼は河神ケブレンの娘、ニンフのヘスペリエに恋をし、森から森へと追いかけ回していました。

逃げるヘスペリエ、追うアイサコス

ある日、ヘスペリエは父の河神の川岸にすわり、肩の上に髪をひろげて太陽に当てていました。アイサコスは彼女を見つけると走って近づきました。

ヘスペリエは敵に襲われたかように、すぐさま逃げ出しました。彼は彼女を追いかけます。ヘスペリエも早く、アイサコスも早かった。

ところで、その追いかけっこの最中、草の茂みに隠れていた毒ヘビが彼女の足を噛んだのです。毒は、すぐさま彼女の息の根を止め、彼は彼女を抱きかかえました。

「僕が君を追いかけたばかりに、君は死んでしまった。噛んだ毒ヘビより、追いかけた僕の方がもっと悪い。死んで、償おう」

アイサコスは大声で叫ぶと、海に突き出ている絶壁から海に身を投げました。

潜水鳥アビになったアイサコス

それを見ていた海の女神テテュスが彼を憐れみ、優しく受け止め、波間に漂よわせ、優しく羽毛で包んであげました。こうして、彼は死の償いを果たすことはできなかったのです。

アイサコスは、生きている自分、生かしている神に腹を立てました。
「なぜ死なせてくれない。もう生きたくない者を無理やり生きさせるとは!もう肉体から離れたがっている霊魂が、それを許されないとは!」

彼は肩に生えたばかりの翼を使って、大空高く舞い上がり、その後激しく海中に身を投げます。が、羽が落下の勢いを弱めてしまいます。それでも、アイサコスは怒り狂って、何度も海中深く突き進み、死を望みました。

こうして、アイサコスは、来る日も来る日も海に深く潜っていたのです。やがて、彼の顔も体も細くなり、首は長く伸び、足は細長くなっていきました。

そして、いつしか潜水鳥アビに変わっていたのです。

アビ〈アビ〉