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黄金の羊毛:弟を海に投げるメデイアドレイパー〈黄金の羊毛:弟を海に投げるメデイア〉

アイエーテース王の怒りと追跡

次の日の朝。
「ギリシャ勢が一人もいません」家来がきてアイエーテース王に報告しました。「メデイア姫様と弟君アプシュルトス様もおりません」乳母も王に告げました。

「くそ〜、ギリシャ人め! メデイアめ、イアソンに惚れてしまったか!」
王はすぐ船団を集めると、アルゴー船を追いかけました。

「イアソン様、父の船団が迫ってきます!」とメーディア。

さらに、船上の父アイエーテース王の顔も見えるほど近くなると、メデイアは叫びました。「父上、何人たりとも私の幸福の邪魔はさせません!」

メデイアは近くにいた弟アプシュルトスをつかみ上げると、頭、手足を切り離し、体とともに海に投げ入れました。アイエーテース王の追手は船を止め、バラバラになった体を探しはじめます。その間に、アルゴー船は逃げることができたのです。

しかし、『弟を殺してまで』との残酷なメデイアに対するギリシャ勢の中にわだかまりが残ってしまいました。

このことは大神ゼウスの怒りにも触れました。さすがに、ゼウスの妻ヘラにしても、夫の怒りを鎮めることはできません。

その後、アルゴー船は風と大雨と大波にもてあそばれ、ある群島に漂流しました。後にメデイアの弟の名をとったアプシュルトス群島と名付けられたところです。

セーレーンの島とカリュブディス

さらに船は漂流し、何やら美しい歌声が聞こえてくる島に近づきました。セーレーンの島です。船員を誘惑、船を岩礁で遭難させ、その乗組員を食べてしまう魔女の島です。

最初は聞き惚れていたイアソンですが、我に返りオルフェウスを呼びました。オルフェウスは竪琴を鳴らし、その美しい声で歌いました。

するとギリシャ勢は正気に戻りました。が、セーレーンの声に引き込まれ、島に泳いでいってしまった者も一人だけいました。

次に、大きな渦巻きに巻き込まれた船の船員をつまみ上げては食べてしまうの巨人カリュブディスの島が見えてきました。今にも渦巻きに引き込まれそうになった時は、さすがのメデイアもその死を覚悟したほどです。

しかし、ヘラの集めたニンフたちが手に手を取って渦巻きの防波堤になり、アルゴー船を救ってくれました。

キプロス島の青銅人間

アルゴー船は故郷の近くまで帰ってきましたが、最後の難関がヘパイストスが作ったキプロス島の青銅人間です。近くを通る船に大きな岩を投げつけ、沈没させてしまいます。

ここで、メデイアが一計を案じ、青銅人間に言いました。
「血液を不死の神血に変えてあげましょう」
青銅人間は美しいメデイアに安心して、船を近づけました。

実は、青銅人間は頭から足まで、1本の血管だけが通っているのです。そして、その血管は簡単に釘で止められているだけなのです。その場所をメデイアは確認すると、即座に釘を引き抜きました。

血液は流れ出し、青銅人間はその場に倒れてしまったのです。こうして、アルゴー船は故郷イオルコスに帰ってきました。

メデイアの魔力。イアソンの復讐を果たす

叔父のペリアースはイアソンがなかなか帰ってこないのを理由にして、父親のアイソーンと幼い弟を殺していました。それを苦にして、イアソンの母親は嘆き自殺していました。

イアソンはペリアースに金羊毛を渡しました。が、ひそかに復讐を決意。

メデイアは、ここでも一計を案じました。ペリアースの娘たちの前で老いた羊を切り刻んで、薬草を入れた釜に入れ、生きた子羊に変えてみせたのです。娘たちは父親も同じように若返えるようメデイアに頼みました。

薬草の入った釜を用意すると、娘たちに父親ペリアースを呼ばせ、その体を切り刻ませ、釜に入れさせました。当然、若返り生き返ることはありません。

こうして、イアソンは復讐を果たすことができたのです。が、イオルコスの人々は、簡単に人を殺す魔女メデイアを恐れ、イアソンともども追放してしまいました。

父アイソーンの死[別説]

年老いたアイソーンは生きていて、メデイアが若返らせる別説もあります。
ギリシャ悲劇メデイア[1]『アルゴー船の大冒険』のイアソンの裏切り

メデイアの逃亡とイアソンの最後

二人はコリントスに逃れ、二人の子供と10年間幸福に暮らしていました。

やがてコリントスの王クレオーンがイアソンをたいそう気に入り、「コリントスの未来を、あなたのような英雄にまかせたい」と、王女グラウケーとの結婚を申し出ました。

イアソンはメデイアの一途ではあるがその魔力と気性の激しさから、嫌気がさしていたところだったのす。彼は密かにこの申し出を受けることにしました。そして、王が用意したお金をメデイアに渡すと、離縁を告げました。

「このお金を持って、子供と一緒に他国に行ってほしい」
「なんという仕打ちですか! コルキスでも、アルゴー船の航海でも、父親の復讐でも、あなたを助けたのに」

メデイアは激怒し、王女に毒薬をしみ込ませた衣を贈りました。王女は気に入って衣を着ると、毒薬で肌が焼けこげ、助けようとした父王ともども焼け死んでしまいました。

今度はイアソンが怒り、メデイアのところに行くと、彼女は二人の子供メルメロスとペレースまで殺して、有翼の竜の戦車に乗ってアテナイに逃れていきました。

年老いたイアソンは、故郷の草むらの中に朽ち果てていたアルゴー船に寄りかかり、死んでいたということです。

※アテナイのアイゲウス王はメデイアを受け入れ、後に結婚しました。アイゲウス王はテセウスの父です。

メデイアバンルー〈メデイア〉