1話5分で読めるギリシャ神話

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飢えたエリュシクトーン、娘を売る

エンジェル・オーク
〈エンジェル・オーク〉出典

豊饒の女神デーメーテールの大きなカシの木

デーメーテールの森に、天にも届くような大きなカシの木が生えていました。木の精霊ハマドリュアスたちは、いつも木のまわりを、手をつないで踊っていました。

ある日、信仰心のないエリュシクトーンは、召使いたちに命令しました。
「おい、召使いども、この木を切り倒せ」
しかし、女神を敬っている召使たちは、斧を手にしたまま、誰一人その木を切ろうとはしません。

エリュシクトーンは召使いから斧を奪うと、斧をふりあげました。
「女神がこの木を愛していようが、この木が女神自身であろうと、わしの邪魔になるなら切り倒すだけだ」

カシの木は怖さで震えあがりました。
斧の一撃が加えられると、傷口からは血のような液が流れ出しました。召使いはみな恐怖にとらわれましたが、中のひとりが勇気を奮い起こしエリュシクトーンに叫びました。
「お止めください、この木は女神様のものです。木の精霊を悲しませてはなりません」

「きさまの信仰心などクソくらえ!これでもくらえ!」
怒ったエリュシクトーンは、斧でその召使いを切り殺してしまいました。

すると、カシの木の中から声がします。
「この木に住んでいる私はデーメーテール様に愛されているニンフです。死ぬ前におまえに予言します。天罰が必ずくだりますよ」
そう言うと、カシの木は大きな音を立てながら倒れてしまいました。

ハマドリュアス
エミール・ビン〈ハマドリュアス〉

山のニンフ、オレイアス

木の精霊であるハマドリュアスたちは、悲しみを胸に女神デーメーテールに会いに行きました。
「どうか、エリュシクトーンに罰をお与えください」
女神はうなづき、飢餓の女神リーモスに彼を委ねることにしました。女神デーメーテールは豊饒の神ですので、飢餓の女神リーモスのところへは行けません。『豊饒』と『飢餓』は会ってはならないと、運命の女神が決めていたからです。

そこで、女神デーメーテールは山のニンフのオレイアスを呼んで命じました。
「氷に閉ざされたステキュアのはずれに不毛の地があります。そこには、『寒気』『恐怖』『戦慄』『飢餓(リーモス)』が住んでいます。『飢餓』に、エリュシクトーンがどんなに食べてもけっして満たされないように伝えなさい。私の竜の二輪車を使えば、天空を走りすぐに着けます」
そう言うと、女神は二輪車の手綱をオレイアスに渡しました。

飢餓の女神リーモス

リーモスの姿は、髪はもじゃもじゃ、目はくぼみ、唇は白ちゃけ、顔は青白く、皮膚は引きつり、骨が透けて見えるようでした。その姿にオレイアスは恐ろしくなり、近づくことはできませんでした。が、女神デーメーテールの伝言だけは叫んで伝えました。さすが飢餓の女神リーモスだけに、オレイアスは離れていても飢えを感じ始めていました。

リーモスはすぐさま飛んで行って、エリュシクトーンの寝室にやってきました。寝ている彼を抱きよせると、体の中にひもじさを吹き込み、終えると不毛の地に帰って行きました。

エリュシクトーン、娘を売る
ヨハン・ウィルヘルム・バウア〈エリュシクトーン、娘を売る〉

飢えたエリュシクトーン、娘を売る

エリュシクトーンは目が覚めると、凄まじい空腹から猛烈に食べ始めました。しかし食べても食べても空腹が満たされることはありません。こうして、彼は持てる財産のすべてを食べつくしました。残ったものは、もはや娘一人だけになりました。その娘までを奴隷として売ってしまい、その金で買った食物、すべて食べつくしました。それでも、彼のひもじさは消えることはありません。

一方、娘は奴隷になることを拒み、買主から海辺に逃げてくると海神ポセイドーンに助けてくれるよう祈りました。海神は、娘を魚釣りの漁師に変えてくれました。

買主が、娘を探しに海辺にやってくると、
「そこの漁師さん(じつは娘)、みすぼらしい服を着た娘を見かけなかったかね。この辺にやってきたはずなんだが」
娘は、おかしさをこらえ、
「そんな娘、見かけなかったな〜。釣りをしてたもんで、分からんかったな〜」
と、答えました。買主はなおもあたりを探していましたが、あきらめて帰っていきました。

娘が帰ってきたのを喜んだエリュシクトーンは、また娘を売りました。その都度、ポセイドーンは娘を馬や牛、鳥や鹿に変えて、買主の目をごまかしました。当然、父は帰ってきた娘をまた売ります。

こんな卑劣な手段がなんども続くわけがありません。また、ひもじさが失くなるわけではありません。とうとう、エリュシクトーンは飢えを満たすために自分の手足、体を食べてしまい、最後には自分の唇まで食べて死に至りました。

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