※本ページにはプロモーションが含まれています。

ヘクトルとアイアスの一騎打ちを止める伝令使〈ヘクトルとアイアスの一騎打ちを止める伝令使〉

アポロン、アテナに提案する

ヘクトルとパリスが参戦すると、ギリシャ勢は押されはじめました。オリュンポス山から見ていたアテナは、下界へ駆け下ります。

今度はそれを見ていたアポロンが女神を追いかけます。「ゼウスの娘よ、何ゆえ急ぐのだ。ギリシャ勢を勝たせようとするつもりか。まあ、その前に私の提案、今日は戦いをやめてはどうか。後日またトロイアの命運が尽きるまで戦えば良いのだから」

「アポロンよ、そうしよう。では、どのように戦いをやめさせるのか」
「ヘクトルを奮い立たせ、ギリシャ勢の誰かと一騎打ちを挑ませよう」

これを感じ取ったプリアモス王の子で預言者ヘレノスは、兄弟のヘクトルに告げます。「ヘクトルよ、今神の声を聞いた。ギリシャ勢の誰かに一騎打ちを挑んでくれ」

喜んだヘクトルは槍を使いトロイア勢を座らせると、ギリシャ総大将のアガメムノンも兵士を座らせます。

ヘクトルは挑発します。「大神ゼウスは休戦をさせては下されなかった。いずれは、どちらかの命運が尽きることになろう。だが、今はこのヘクトルと一騎打ちをする勇気のある者はいないか」

ギリシャ勢の一騎打ちのくじ引き

すぐさまメネラオスが立ち上がりましたが、兄アガメムノンは、「お前はヘクトルに勝てない、座っていろ。誰か他の武将を立てる」

誰も名乗りを上げないので、老ネストルは怒り、「なんたることか、かつてギリシャには英雄がごまんといた。それがヘクトルに挑もうとする者が誰もおらぬとは。わしがもっと若ければ……」

この言葉に、アガメムノン、ディオメデス、アイアス、イドメネウス、オデュッセウスなど9人が立ち上がりました。老ネストルが再び口を開きます。「では、くじ引きで決めよう」

アガメムノンの兜の中に、9人は自分の印をつけた木片を投げ入れます。老ネストルが兜を振ると、アイアスの木片が飛び出しました。

ギリシャ勢は歓声をあげます。「父神ゼウスよ、願わくはアイアスに勝利を賜りますように。もしヘクトルをも愛されるようならば、両者に同じ名誉を与えますように」

ヘクトルとアイアスの一騎打ち

アイアスは軍神アレスのごとくヘクトルの前に立ちます。
「ヘクトルよ、ギリシャの勇者はアキレウスだけではないぞ。さあ、戦おう」

答えるヘクトル、
「アイアスよ、隙を見て打ちかかるような真似はせぬ。正々堂々と戦おう」

両雄、槍で楯を突き合いながら戦い始めます。ヘクトルの槍がアイアスの楯でぐにゃりと曲がると、今度はアイアスが槍をヘクトルの楯に突き刺します。すると、楯を貫いた槍は、ヘクトルの脛を傷つけました。ヘクトルは後に引きましたが、戦いを止めることはありません。

すかさず、大石を拾い上げると、アイアスに投げつけます。石は楯にあたり大音響がしました。今度はアイアスが大石をヘクトルに投げ返します。ヘクトルの楯は砕かれ、彼は楯の下に仰向けに倒れます。この時、アポロンがすぐに彼を立たせました。

二人の間に杖を差し入れる両軍の伝令使

「戦いは、もうお止めください。ゼウスはお二人とも愛しておられます。それに、もう夜になりました」
伝令使がこう言うと、アイアスは
「わしはどちらでも良い。一騎打ちを申し込んだヘクトルに決めさせよう」

「アイアスよ、槍をとってはギリシャの中にお主の右に出る者はいない。よくわかった。今日は戦いをやめよう。夜になり家に帰れば、お互いの身内の喜びとなろう。ところで、今日の記念にお互い贈り物をしようではないか」
そう言うと、ヘクトルはアイアスに剣と吊り革を、アイアスはヘクトルに真紅の帯を送りました。

トロイアの人々はアイアスと戦って、ヘクトルが生き帰れたことを喜び、ギリシャの人々はアイアスの勝利だと喜びました。総大将アガメムノンは5歳の牡牛を屠りゼウスに供すると、アイアスを讃えました。その後、兵士たちはみな食事をとりました。

老ネストルは立ち上がり、
「明日は戦いをやめて、死んだ兵士を火葬にし、骨を持ち帰れるようにしよう。その後、船場の周りに防壁を築き、その外側に深い堀をめぐらそう」