ヴェロネーゼ〈エウロペの略奪〉
ひときわ美しい乙女エウロペ
ゼウスは、オリュンポス山から下界を見下ろしていました。
そして、浜辺で遊ぶ女たちの中でもひときわ美しい乙女に、一目惚れしました。フェニキア王アゲノルの娘エウロペです。
どう近づいたら良いか思案した後、伝令の神ヘルメスを呼びました。
「山の牛たちを、浜辺のあの女たちの近くに追いやってくれ」
ヘルメスはさっと飛んでいき、牛たちを追いはじめます。
ゼウスは、白い牡牛に変身
一方、ゼウスはこっそりと白い牡牛に変身すると、ヘルメスにも分からないように牛たちに紛れ込みました。
そして、女たちに近づきました。白い牡牛なので珍しく、女たちに気に入られました。また、ゼウスもおとなしく優しそうな牡牛の動きをしていました。
ゴヤ〈エウロペの誘拐〉
「なんと優しそうな牡牛でしょう」
エウロペもそばにより、頭や背中をさすってやりました。
「いい気持だ。早く、私がその手をさすりたいものだ」ゼウスは早くも興奮してきましたが、身振りには出ないように気をつけました。
エウロペは、すわっている温和な牡牛にすっかり安心してその背に乗りました。
その瞬間です!
牛は立ち上がり、海に入って猛然と泳ぎだしました。その速いこと!はや、岸からは遠く離れています。エウロペは、その背から落ちないように、必死でツノをつかんでいました。
岸では、乙女たちが大騒ぎしています。が、エウロペと牡牛はどんどん小さくなって見えなくなってしまいました。
エウロペ、クレタ島の王家の母に
牡牛はエウロペをクレタ島に連れて行きました。ゼウスは牡牛から元の姿にもどり正体と明かすと、エウロペを抱きます。
やがて、ミノス、ラダマンテュス、サルペドンという息子たちが生まれました。やがて、ミノスはクレタ島の偉大な王になり、ラダマンテュスは冥界の審判者に、サルペドンはトロイア戦争でトロイア側に味方し戦います。