プッサン〈バッカス祭〉
神ディオニュソスの出現
少年はブドウの冠をかぶり、手には槍を持っていました。虎が足元にはべり、まわりには山猫と豹がたわむれています。少年は神としてディオニュソスの姿を現したのです。
船員たちは驚き恐れ、慌てて海に飛び込みました。すると、その手は鰭(ヒレ)に、その足は先が三日月になった尾を持つイルカに変身してしまいました。
私がブルブル震えていると、神は「何も心配しなくていい、船をナクソス島に向けなさい」とおっしゃいました。船の舵をとると、船員はすでに誰もいませんが、自然と船が動き出しました。
ここまで聞くと、ペンテウス王は叫びました。
「詰まらぬ話に時間を取られた。即刻処刑せよ!」
家来たちはアコイテースを牢に入れると、処刑の準備に去って行きました。
すると、アコイテースの手や足を縛っていた鎖は自然にはずれ、牢の扉も自然に開きました。家来が戻ってきた時には、アコイテースの姿はありませんでした。これは、全てデイオニュソスの警告でした。
ペンテウス王、キタイロン山へ
警告を無視したペンテウス王は、自分自身で裁こうとディオニュソスの祭りが行われているキタイロン山に出かけました。山では信者たち、特に女信者の声が響き渡っています。この騒音は、ますますペンテウス王の怒りに火をつけました。
ペンテウス王が祭りの中心地にくると、彼を見つけた女信者や群衆が襲ってきました。
「あすこに森を荒らすイノシシがいる! 姉妹たち、みんな来ておくれ。あのイノシシをやっつけるんだ!」
なんと、叫んだのはペンテウス王の母アガウェーでした。
恐れたペンテウス王は今までのことを弁明し、罪を認め、許しをこいました。
しかし、女信者たちには、ペンテウス王の声はイノシシの吠え声にしか聞こえません。王はその間にも傷つけられて、信者の中に見つけた伯母たち2人に助けを求めました。が、叔母アウトノエとイーノーは、王のそれぞれの腕をつかみ、引き裂いてしまったのです。
ペンテウス王の死
「勝った!勝った!私たちのお手柄だ!」
ペンテウス王の母アガウェーは、狂乱の中で叫んでいました。
ところで、ペンテウス王はなぜディオニュソスとその祭礼を嫌うのでしょうか。セメレとアガウェーは姉妹です。セメレはゼウスの子ディオニュソスを、アガウェーはペンテウスを生みました。人間・ペンテウスは、神・ディオニュソスに嫉妬していたのかもしれません。
ポンペイ壁画〈引き裂かれるペンテウス〉