両軍は戦い、多くの武将の血が流れる
死んだギリシャの武将は、軍神アレスの子アスカラポス、ヒュプセノル、デイピュロス、エウケノルなどなど。一方、死んだトロイアの武将は、オトリュオネウス、アシオス、アルカトオス、オイノマオス、アパレウス、アダマス、ペイサンドロス、ハルパリオンなどなど。
なかでも、アルカトオスはポセイドンにより目をくらませられ、手足も動けぬ状態で、イドメネウスに殺されました。
ヘクトルは多くの武将が死んだり、傷ついたりしていることに気がつきません。このままでは、トロイア軍は城壁に押し戻されていたに違いありません。
そんなヘクトルに、プリュダマスが声をかけました。
「ヘクトルよ、一歩退いて戦況を確認したらどうだ。それにより撤退するか、このまま攻めるか決めようではないか」
「わかった、今すぐ確認してこよう。ここに主だった武将を引き留めておいてくれ」
ヘクトルも何か察するところがあり、普段ならプリュダマスの提案など一蹴していたはずです。
ヘクトルは、自軍の中を駆け巡り、その中にいたパリスに尋ねました。
「色狂いのパリスよ、デイポボスはどこにいる、豪勇ヘレノスは、アシオスとその子アダマス、オトリュオネウスは……」
「兄者の探している戦友は幾人かは討たれた。が、デイポボスと豪勇ヘレノスの二人だけは、槍で腕を刺されて自軍に退いた。さあ、兄者、我らを率いてくれ」
こうして、二人はもっとも激しい戦闘の場所に向かいました。
大アイアス、ヘクトル再び相対す
ヘクトルとパリスの前には、大アイアスが立ちはだかります。「ヘクトルよ、どうした。もっと近くに来たらどうだ。ギリシャ勢が一旦負けたかに見えたのは、ゼウスがふるう悪意の鞭に打たれたからだ。
きさまは船陣を粉砕する気でいるかもしれぬが、我らは防いでみせる。いや、それよりも早く、おぬしらの見事な町トロイアは、われらの手によって破壊されるであろう」
この時、大アイアスの右手に吉兆を示す鳥、天空をかける鷲が飛びました。ギリシャ勢は歓声を上げます。
ヘクトルは負けずに、大アイアスに言い放ちます。「ほざくな、アイアス。今日がギリシャの敗北の日だ。おぬしも船のそばで倒れ、その体は野犬や野鳥の腹を満たすことになるであろう」
大アイアス vs ヘクトル、再び相対します。