ケラー〈ヘーローとレアンドロス〉
海峡を挟んだ恋
ヨーロッパとアジアを隔てているヘレスポントス海峡(現ダーダネルス海峡)。
ヨーロッパ側のセストスという街にはアフロディテの女神官ヘーローが住んでいました。一方、アジア側の街アビュードスには、レアンドロスという若者が住んでいました。
こんな二人が恋に落ちました。あのロミオとジュリエットのように。
「私は神官ですので、恋は禁じられています」
と、ヘーロー。
「二人が結ばれることを、アフロディテ様は許してくださる。なんといったって愛の女神様なんだから」
と、レアンドロスは何度も説得しました。
最初は拒んでいたヘーローも、この言葉に愛を受け入れることにしました。
レイトン〈ヘーロ−の最後の眺め〉
ある冬の嵐の夜
こんな夜には会わなければ良いと思うのは大人の考えですが、若い二人には通用しません。レアンドロスは今夜も海峡に飛び込んだのです。
「まぁ、どうしましょう!」
ヘーローが火を灯しても、すぐ強い風がその火を消えてしまいます。彼女はレアンドロスのことが心配で心配で、ただただ暗い海峡を見ているしかありません。
レアンドロスはいつも通り、まっしぐらに対岸の塔にむかって泳いでいました。が、荒れた暗い海の中、彼は高い波の上に持ち上げられたかと思うと、真っ逆さまに落とされます。何度もなんども荒波にもてあそばれ、方向も見失い、とうとう力尽きてしまったのです。
いくら待っても、現れないレアンドロス。
「今夜はこの嵐ではこれないのね。きっと引き返したのだわ」
ヘーローは、休むことにしました。
風もおさまった次の日の朝
海辺で街の人々がざわめいていました。塔の上から見ていたヘーローは、胸騒ぎがして走り出しました。そして、人々をかき分けて中に入っていくと、大きな叫び声をあげました。
「あぁ、レアンドロス様〜」
ヘーローは泣き叫び、髪をかきむしり、彼に抱きつきました。
しばらくそうしていましたが、彼女はいきなり立ち上がると、塔の上に駆けのぼり、海に身を投げてしまったのです。