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ペネロペイアロセッティ〈ペネロペイア〉

オデュッセウスのトロイアからの手紙

夫オデュッセウスがトロイアに遠征していた時、最後の手紙にはこうありました。

「ペネロペイアよ、わしの一計でトロイアに勝てた。屈強な戦士を隠した大きな木馬を作り、夜のうちにギリシャ軍の陣地に置いたのだ。その後、ギリシャ軍は撤退したように見せかけて、離れた入江に隠れたのだ。

朝になり、トロイア人はびっくりしたことだろう。ギリシャ軍は、一人も見えない。おまけに、大きな木馬がある。
『とうとう、諦めたか!』
『木馬は、神々への捧げ物じゃ!』
『いや、木馬の中に兵士がいるかもしれないぞ?』
『崖から落とせ!』
......
その直後、1本の槍が木馬の胴体に投げ込まれたのだ。驚いて大声を出そうとした若い兵士がいたのだが、とっさにわしがそいつの口をふさいだのだ。肝を冷やした瞬間だった。

また、『木馬の中を確認せよ』と言った神官ラオコーンと息子たちが、すぐ後ウミヘビに襲われた。そして、わしが残していた兵士が、『木馬は女神アテナへの捧げ物だ』と話したのだ。もちろん、わしの指示だったがな。

これで、トロイア人は木馬を城門の中へ運び入れたのだ。その日は朝から晩まで戦勝気分で、街中大宴会だった。みんな酔っ払い、ぐっすり寝てしまったのだ」

トロイアの木馬の行進〈トロイアの木馬の行進〉

「夜もふけてから、われらは木馬から出て、トロイアを蹂躙した。だから、この勝利はわしの手柄だ。褒美も、総大将アガメムノン、弟の副将メネラオスについで多かった。みんな持ち帰るから、楽しみに待っていてくれ。これで、わしの名声も上がった。愛するペネロペイアよ、今後そなたはギリシャ一の知恵者の夫人と言われよう」

まったく、オデュッセウスらしいわ。自分の名声を何よりあげたいと言って出陣したのだから。その手紙を最後に、10年間なんの音沙汰もなくなったのですよ?

でも、このトロイア戦争の10年間は夫のちょっかいもなく、わたしは息子テレマコスにかかりっきりになれたのはよかったわ。生まれたテレマコスは、本当に可愛かった。はいはいしだし、立てるようになり、すくすく育ってくれて毎日が楽しかった。そんな子でも10歳過ぎると、だんだん反発もするようになって......。

まぁ、子供の成長ってそんなものよね。あっという間の10年間だった。

だから、トロイア陥落後、オデュッセウスが帰ってくると思うと、嬉しかったわ。でも、3年経ち、5年経ち、はや10年近く経っても帰ってこない。

いろいろな人があの人に会ったと言っては、わたしを訪ねてきました。その度にご馳走したり、服も与えたりしたわ。みんな嘘ばっかりって分かってても、聞かずにはいられなかったのよ。

さすがに「夫は、もう死んだ」と思ってしまう自分がいました。また、このイタケの領主を狙う有力者の息子たちから、結婚を求められるようにもなりました。

機を織るペーネロペイアと求婚者たち〈機を織るペーネロペイアと求婚者たち〉

ペネロペイアの迷いと焦り

アラサーも半ば過ぎ、私の女としての魅力もだんだんなくなる恐怖の毎日。時々、体も疼くしね(あらやだ、私何言ってるの)。

オデュッセウスの父ラエルテス様も「もう諦めて、再婚しなさい」と言ってくださる。母アンティクレイア様はオデュッセウスを心配し、悲嘆のあまりなくなってしまわれた。

私は決断できず、求婚者には「ラエルテス様の着物を織り上げたら、必ず決めます」って、ごまかしている。実をいうと、昼に織って夜にはほどいて、時間稼ぎをしていたの。でも、それがバレてしまいました。

それからが大変! 今は50人をこす求婚者とその取り巻きがわが屋敷に入りびたり、多くの酒と食べ物で毎日宴会をしている。息子テレマコスは、無法な求婚者といるのが嫌になり、スパルタのメネライス王のところに行ってしまった。オデュッセウスの消息を尋ねてね。

総大将だったアガメムノン様は、10年近く前に死んでしまわれた。あの時は本当にびっくりしたわね。アガメムノン大王の殺害。なんと、犯人は夫人クリュタイムメストラと間男アイギュプトス。

でも、わたしはクリュタイムメストラ様にちょっと同情したわ。トロイア戦争に行く前に、アガメムノン大王がお嬢さんのイピゲネイア様を女神アルテミスの生贄になさったの。アウリス港が荒れて、出陣できなかったから。殺される寸前、女神がお嬢さんと雌鹿を入れ替えたっていうけど、お嬢さんはいなくなってしまった。

年を取っても、男は若い女と再婚するのは普通のこと。だけど、女は簡単には再婚できない。年を取るって、女にはホント辛いこと。わたしの場合も同じく、もう20年間も女盛りが空しく過ぎてしまっている。

それから、求婚者たちがテレマコスを殺す計画をしている。ああ、心配で胸が張り裂けそう。こんな時こそ、父親が必要。役立たずのオデュッセウスめ、いったい何やってのかしら!

オデュッセウスの妻ペネロペイア[独白]その2