〈ヘレニズム時代の原物を摸したローマのヘラ像 〉
目次
弟に嫉妬する人生、いや神生?
え? なんの話かって!
夫のゼウスって、わたしの弟なんですよ。だって当時の世界、男神なんてほんの一握り。しかたなく、弟に求愛されて夫婦になったんです。
それがなぜか、神話の中のわたしは、いつも嫉妬しているオバさんのイメージ。
こう見えても、わたしはオリュンポス12神の一柱なんですよ。しかも、ゼウスの妃ですから、[神々の女王]すなわち[全世界の女王]なんです。だから、わたしの思いはそのまま[全世界の掟]なの。
みなさん、あの美しい虹の女神イリスが、わたしの忠実な部下で伝令使って、知っていましたか?
ゼウスはわたしに夢中だったんだから?
結婚のときの話ですよ。前の奥さんテミスと結婚していたゼウス。わたしに可哀想に思わせようと、雨の中ずぶぬれになったカッコウに化けて来たの。
部屋に入れたら、いきなり抱きついてきたり......。笑っちゃますよね。カッコウですよ。わたし、もうおかしくて、そんな気分じゃないし、決して肌に触れさせなかったわ。
だから、冗談でゼウスに「テミスと別れて、わたしと結婚する気があるなら、許すわ」と言ってやったの。
そしたら、わたしの美しさにメロメロだったゼウスは「すぐにもテミスとは離婚する」てせまってきたの。そこまで言われては、受け入れるしかないでしょ。
わたしが姿を隠しただけで、ゼウスったら
ある時、わたし、オリュンポス山を出てキタイロン山に隠れたんです。ゼウスったら、私を誘い出すために、花嫁衣装で着飾った女の木像をつくって、「この女と結婚するぞ〜」と大声で叫んだの。
そこまでして、私を求めているのなら許してやろうかと思ったわ。
でも、すんなり出て行って仲直りしたら、夫の面目が立たないでしょ。だから、怒ったふりして飛び出して、その人形の衣装をむしり取ってやったのよ。
こうすれば、わたしが夫に夢中ってことになり、世間では「ゼウス様は、あんなきつい奥さんで大変だね」って、話がそれるでしょ。わかった、みんな計算、計算なのよ。
カラッチ〈ゼウスとヘラ〉
ふふふ、わたしにメロメロってわかるよね!
毎年春になるとナウプリアのカナトスの聖なる泉で、わたし沐浴して嫌なことぜ〜んぶ洗いながすの。気分転換よ。
この時のわたしは清々しい乙女になるの。美しさでもアフロディテにだって負けません。さすがに、この時の夫ったら、他の女には目もくれずに私に首ったけ。知らなかったでしょ。
上の絵画のわたし、綺麗でしょ。ゼウスの顔見れば、ふふふ、わたしにメロメロってわかるよね!
だれ?「アフロディテの〈ケストス〉つけてるから!」って言ったのは!
【ケストス】相手に愛情をおこさせるアフロディテの美しい刺繍の帯
わたしが残酷だって?
わたし、「神々の女王」なんですよ。全世界の女王。だから、わたしの思いはそのまま世界の掟なの。人間の世界では「犯罪の陰には女あり」って言うでしょ。「ゼウスの陰にはヘラあり」なの。
そんなわたしの面目を失う行為を許すわけにはいきません。今のわたしは、もう、夫には男女関係を求めていません。だって、もともと冗談から始まった結婚ですから。
それにしたって、夫ったら若い女ばかりに手を出すんだから、わたしへの当てつけかしら。
人間界には夫に暴力をふるう女性もいますが、神々の世界では、ぜったい[神々の王ゼウス]には手を出せません。
仕方ないから、もう一度言いますが、[神々の女王]の面目を保つためには、浮気相手には残酷と言われても厳しいお仕置きをしなければならないのよ。
[婚姻と女性を守護する女神]と天の川
こんなわたしが[婚姻と女性を守護する女神]に祭り上げられるなんて、皮肉もいいとこ。周りが気を使ってのことでしょうけど。
それでも、4人の子供、アレス、ヘパイストス、エイレイテュイア(結婚の神でもあるヘラの供として出産と産婦の保護を司る)、ヘーベー(神になったヘラクレスの妻)を産みました。
また、夫の浮気相手アルクメネの子ヘラクレスには乳も飲ませてやりました。あの子ったら、ホントに力が強いから、わたしの乳房が握りつぶされるかと思った。
痛くて、あの子を引き離そうとしたら、乳が空に飛び散ったの。それが、あの美しい「天の川」になったの、知ってた?
もっと話したいけど、長くなるし、疲れたから今度ね。