ミュティレーネーの報復
ミュティレーネーの町民たちは、メーチュムナに報復することを決めました。歩兵3000人、騎兵500を招集し、ヒッパソスを司令官とし陸路派遣しました。しかし、品行方正なヒッパソスは、メーチュムナ人の田畑を荒らしたり、家畜や財産など略奪したりはしませんでした。
ヒッパソスの部隊がメーチュムナに18kmに迫った時、メーチュムナ側の和議の使者がやってきました。自分たちの非を認め、略奪品は全て返却し、友好関係を求めたのです。
ヒッパソスはその使者をミュティレーネーに発たせ、街からの指令を待ちました。2日後、「国元へ返還せよ」との命令がありました。こうして二国間に平和が戻ったのです。
やがて、冬になると雪が降りはじめました。
〈冬来る〉
ダフニスの名案〜小鳥の捕獲
ダフニスとクロエーは草原で家畜の世話ができず、会う機会もなくなり苦しい季節になりました。春を待つしか手立てがありません。
しかし、ダフニスは悩んだ末、クロエーに会う名案を思いつきます。
ドリュアース家の前に、二本のテンニンカがあります。木はつたにおおわれて、実の房が一面に垂れ下がっていました。それを求めて、冬鳥の大群が集まっていたのです。ツグミ、野バト、ムクドリなどです。
ダフニスはこの小鳥を取ることを思いつき、雪の道もなんのそのとクロエーのいるドリュアース家の前にやってきました。
しかし、クロエーをはじめ誰一人、家から出てきません。ダフニスはなんとか家に入れないかと思案しましたが、理由が思いつがず「春になったら、会おう」と諦めました。
〈ダフニスの鳥狩り〉
ダフニス、ドリュアース家に泊まる
そんなダフニスをエロスが哀れんだのか、思わぬことがおきました。家から、犬が肉をくわえ飛び出してきたのです。犬を追ってきたドリュアースは、表へ出てくるとダフニスに気づきました。
ドリュアースは犬のことを忘れ「よう坊や、よくきたな」と、ダフニスを家の中に入れたのです。ダフニスとクロエーは見つめ合うとよろめいて、互いに支え合うようにしてこっそり接吻しました。
ダフニスは席につくと獲物をテーブルに広げ、この鳥をとりにきたのだと説明しました。
次の日はディオニュソスの祭りです。ダフニスは幸せにも、今夜は泊めてもらうことになりました。
夜が開けると、家の者がディオニュソスに捧げる1歳の牡羊を屠ります。ドリュアースが肉を煮て、妻のナペーがパンを焼いているあいだ、ダフニスとクロエーは外に出ました。
〈ダフニスの鳥狩り〉
「本当はねクロエー、君に会いにきたんだよ」
「わかっているわ、ダフニス」
2人は、久しぶりに愛を語りあったのです。
この日、ディオニュソスを祭る食事を終えたダフニスは土産をたくさん持って、家路につきました。こうして、冬の間もダフニスとクロエーは会えたのです。
春になると、ダフニスとクロエーは山羊と羊を牧場に連れ出します。また、毎日ニンフとパーンにお供えもします。
春の陽気に少し大人びたダフニスは、クロエーに着物を脱いで今までよりも長いあいだ一緒に寝てくれないかと頼みました。フィレータースが恋を癒すただ一つの薬だと教えてくれたことでした。
クロエーは「着物を脱ぎ一緒に寝てから、どうするつもりなの?」と聞きました。「牡山羊や牡羊が牝にすることをするのさ。その後山羊や羊は仲良くなっているので、恋の苦しさがなくなっているのだと思う」と、ダフニスは答えました。
「でもねダフニス、山羊や羊は立ったままでしている。また、毛皮もあるから、着物を脱がないのと同じだわ」
ダフニスは寝ているときも何もできず、起きてクロエーの後ろから抱きついても何もできません。とうとう、自分は恋にかけては、山羊や羊より劣っていると泣きだしてしまいました。
リュカイニオン、ダフニスの誘惑
〈ダフニスとリュカイニオン〉
さて、近くにクローミスとリュカイニオンという夫婦が住んでいました。町からやってきたリュカイニオンはあか抜けていて、恋にもおおらかです。彼女はダフニスを見ているうちに、自分の愛人にしたいと思うようになりました。
リュカイニオンはダフニスとクロエーの後をつけ、2人が裸で抱き合っているだけなのも知りました。2人をかわいそうにも思った彼女は、自分の欲望も満たす一石二鳥の案を思いつきます。
ある日、リュカイニオンは2人に近づき話します。
「ダフニス、お願いがあるの。私が飼っているガチョウがワシにさらわれたんだけど、重かったのか低い木立の中にガチョウを落としたんだ。一緒に探してくれないかい。山羊と羊はクロエーに任せてさ」
こうして、リュカイニオンはダフニスを一番茂みの深い木立の中に連れ込むことに成功しました。
「ダフニス、あんたはクロエーにほれているんでしょ。ニンフ様が夢で教えてくれたんだ。また、昨日あんたが泣いていたのもね。そこで、私に色事の手ほどきをして、救ってやってほしいと。
色事とは接吻や抱擁だけでなく、山羊や羊がすることとは違うの。もっと気持ちのいいものなんだ。私の弟子になって、何もかも私にまかせなさい。ニンフ様に喜んでもらえるよう、あの事を教えてあげるから」
ダフニス、男になる
ダフニスは喜んで、リュカイニオンにお願いしました。こうして、彼は男になったのです。彼は教わったことを忘れないよう、すぐにクロエーのところへ戻ろうとしました。そんなダフニスに、リュカイニオンは忠告しました。
「ダフニス、勉強はまだあるの。クロエーはわたしとは違い、まだ若い生娘。いきなりしたら痛がって泣いたり、血が出るかもしれない。クロエーが身を任せることを納得したら、ここへ連れておいで。ここなら、声を出して泣いても、誰にも気づかれない。血が出たら、この泉で洗えばいい。
でも、忘れないでおくれよ。クロエーより先にあなたを男にしたのは私だってことは」。こう言うと、リュカイニオンはガチョウを探すため去っていきました。