目次
ご主人の使いエウドロモス(韋駄天)
秋の気配がしのびよる季節になると、ラモーンのご主人がやってくることが、使者により知らされました。ラモーンは、庭園の整備に集中しました。
庭園の中央には、ディオニュソスの社と祭壇もあります。花に水をやる泉--ダフニスが見つけたので「ダフニスの泉」もあります。ダフニスはご主人に結婚を認めてもらえるよう、精いっぱい山羊の世話をしています。
そんな折に、二度目の使者エウドロモス(「韋駄天」という意味)がブドウの取り入れをするようにとやってきました。使者は庭園に滞在し、秋の取り入れのすべてが終えてから、ご主人を連れてくることになっています。
使者エウドロモスが町に行くことになった時、ダフニスはたくさんの土産を渡しました。主人によく言ってもらうためで、使者も喜んで約束してくれました。
しかし、ダフニスとクロエーはみんな初めてのことで、結婚が虚しい夢に終わるのではないか、と気をもむことが多くなりました。
〈ディオニュソスの祭壇〉
生意気な牛飼いランピス
ある日、厄介な問題が起こりました。ランピスという生意気な牛飼いも、クロエーを嫁にもらいたいと申し出たのです。ランピスはダフニスとクロエーの結婚を邪魔しようと、なんとかラモーンがご主人の不興を買うように、花壇を荒らしたのです。
次の日、ラモーンは大きな叫び声をあげ、神々に訴えました。妻のミュルタレーとダフニスもかけつけ悲しみました。ご主人の怒りを恐れたからです。
「旦那様がこの庭のありさまをご覧になったら、どうなさるであろう。わしの命はないかもしれぬ。ダフニス、お前もだ」。クロエーも、ダフニスが鞭打たれるのを想像し、悲しくなりました。
エウドロモスが、3日後に主人が到着なさり、明日には主人の子息が来られることを知らせに来ました。彼はダフニスを気に入っていたので、「花壇のことは良いようにはからう」と約束し「主人の息子アスチュロスには伝えておいたほうが良い」と忠告しました。
ご主人の息子アスチュロスと取り巻きグナトーン
次の日アスチュロスと取り巻きグナトーンが到着すると、ラモーンたちはひれ伏して、お父上の怒りから救ってくださるよう願いました。アスチュロスは気の毒に思い、花壇を荒らしたのは、馬のせいにすることにしました。
取り巻きのグナトーンは飲食に溺れ、男色にも溺れるような人物で、美しいダフニスに目を奪われました。
その後、アスチュロスは金持ちの息子らしくウサギ狩りに出かけました。グナトーンは狩りにはついていかず、ダフニスのところに山羊が見たいとやってきました。また、ダフニスを自由の身にしてやるとも言いました。
夜になると、ダフニスにとつぜん接吻し、力によって言うことを聞かせようとします。ダフニスが押し返すと、酔っていたグナトーンは地面に長々と伸びてしまいました。ダフニスはその場を離れ、二度とグナトーンに近寄らないようにしていました。
〈ダフニスとグナトーン〉
ご主人ディオニューソファネース夫妻が到着
ラモーンのご主人ディオニューソファネースとクレアリステー夫妻が到着しました。彼は誠実な人柄で、守護神、パーン、ニンフたちに生贄を捧げ、列席者をもてなしました。
次の日、ご主人は庭園を歩き、ラモーンの仕事ぶりをほめました。荒らされた花壇のことは事前に息子アスチュロスから聞いていたので、おとがめはありません。
それからご主人は、山羊飼いダフニスにも会うことになりました。ダフニスはまるでアポロン神のごとくしっかりと主人を出迎え、ラモーンはこう紹介します。
「旦那様、これが山羊を飼っている子でございます。牝50頭と牡2頭をお預かりしましたが、この子が100頭と10頭にしてくれました。どの山羊も丸々とよく肥えています。また、この子は山羊たちが笛の音を聞けばなんでもするよう、しつけました」
ご主人の妻クレアリステーは実際に見てみたいと言うと、ダフニスにいつものように笛を吹くよう言い、褒美も約束してくれました。
ダフニスが吹く笛の調子に合わせて、山羊たちは立ち止まったり、草を食べたり、集まって横になったりします。激しい笛の調子には、狼に襲われたように森の中に逃げていき、再び吹くと戻ってきました。
クレアリステーとそこにいた人々は、みんなとても感心しました。
〈ディオニューソファネースの到着〉
グナトーンのダフニスへの思いと嘆き
さてグナトーンですが、ダフニスへの思いをさらに高め、主人の息子アスチュロスに訴えます。
「若旦那、私はもうおしまいです。ダフニス以上に美しいものはないと思っています。毎日のご馳走も食べる気はしません。山羊になってダフニスの笛の音に従いたいとも思ってしまうほどです」
そう言って足に接吻するグナトーン。アスチュロスは彼がかわいそうになり、ダフニスを召使として、グナトーンには恋の相手として連れていくことを約束しました。それでも、アスチュロスはグナトーンに問いました。
「ラモーンのせがれなんかに惚れて、恥ずかしいとは思わぬのか?」
「若旦那、ダフニスの美しさは単なる山羊飼い、奴隷ではありません。惚れたのは神様を見習ったからです。大神ゼウスはガニュメデスを、女神アフロディテはアンキセスを、アポロン神はブランコスを愛しました」
使者エウドロモス、ラモーンとダフニスに注意を促す
この話を聞いていた使者エウドロモスは、すぐラモーンとダフニスに注意しました。彼は酔っ払いのグナトーンに我慢がならなかったのです。
アスチュロスがダフニスを召使いにするなら、ラモーンは観念するしかないと思いました。妻ミュルタレーを中庭に呼び出して話します。
「女房よ、もうおしまいかもしれぬ。ダフニスの秘密を明かす時がきた。取り巻き風情のグナトーンに思い知らせねばならない。例の証拠の品々をいつでも見せられるようにしておいてくれ」
その頃アスチュロスはダフニスを召使にすることを、父ディオニューソファネースに話し許可を得ました。主人は喜んで、ラモーンとミュルタレー夫妻にそのことを告げたのです。
しかし、ラモーンはご主人にキッパリ断りました。はたして、ご主人はどんな反応をするのでしょうか? また、ダフニスの運命は?
→ダフニスとクロエー[巻4]大団円②出生の秘密[シャガール]