ヴォラナキス〈アルゴー船〉
王子プリクソスと王女ヘラー
テッサリアにアタマース王と王妃ネペレーの国があり、二人には王子プリクソスと王女ヘラーという子供がいました。
やがて、王はネペレーに冷淡になり離縁、新妻イーノーをめとりました。
前妻ネペレーは「イーノーが子供たちに悪く当たるのではないか」と、心配になりました。
そのころ、イーノーはある計略を立てて、保存してあった穀物の種をあぶって芽が出ないようにし、その年を飢饉にしたのです。
アタマース王は飢饉の原因を突き止めるため、神託をあおごうとデルポイに伝令を送りました。
これを待っていたイーノーは伝令を買収し、「二人の子供をゼウスの生け贄に捧げよ」との嘘の神託を王に告げさせました。
黄金の毛皮の牡羊
二人の子供が生贄にされ、今にも殺されそうになった時です。ヘルメスが黄金の毛皮の牡羊をつかわし、二人を助け、天高く運びあげさせました。牡羊は東へと飛んで行きます。
ヨーロッパとアジアの境まできた時、王女ヘレーは誤って落ちてしまいました。落ちた場所はヘレースポンテス(ヘラーの海)と呼ばれました。今のダーダネルズ海峡です。
牡羊はさらに東へと飛んで行き、黒海の東海岸の国コルキスに到着。王子プリクソスは、コルキス王アイエーテースの歓迎を受け、王の娘と結婚することとなりました。
プリクソスは牡羊をゼウスに捧げ、コルキス王には牡羊の黄金の毛皮を進呈。王はその毛皮を神に捧げた森の中に隠し、眠りを知らぬ竜に守らせることにしました。
ドッシ〈アルゴナウタイの出発〉
老婆に化けた女神ヘラ
テッサリアのアタマース王国の隣りにイオルコスという国がありました。アタマース王の親族アイソーン王の国です。王は政治に嫌気がさし、息子イアソンが成人するまでということで、王権を弟のペリアースにゆだねました。
王子イアソンはケンタウロス族のケイロンの教育を長い間受けて成長し、イオルコスに帰ってくることになりました。
帰途の河岸で老婆が困っていましたので、イアソンは老婆を背負って河を渡りました。この時、片方のサンダルを流してしまいました。実は、この老婆は女神ヘラだったのです。
王子イアソンの帰還
イアソンは、イオルコスに着くと王宮を訪ねます。叔父ペリアースは片方のサンダルしか履いていないこの若者を見ると、かつての神託を思い出しました。
〈片方のサンダルしか履いていない者に、王位を奪われるであろう〉
しかし、ペリアースは嫌な顔ひとつ見せず、イアソンと思い出話をし、最後に頼みごとをしました。
「親族のプリクソスが『黄金の牡羊の毛皮を取りにきてくれ、そして私の魂を慰めてくれ』と夢枕に立つんだ。どうだろう、もともと黄金の牡羊の毛皮は家宝でもあるし、取りにいってもらえないだろうか?」
(どうせ、途中で誰かに殺される。またコルキスに着いたとしても、そこの王に殺されるだろう)
イアソンは、叔父の真意を知りつつも受諾しました。
アルゴー船のメンバー(アルゴナウタイ)
まずは大きな船が必要になります。イアソンは50人も乗れる大きな船を工匠アルゴスに頼みました。当時はカヌー程度の舟しかなかったので、前代未聞の大きな船です。そして、アルゴスが造った船だったので〈アルゴー号〉と名付けられました。
次にイアソンは乗組員を募集。ヘラクレス、テセウス、オルフェウスなど、当時の英雄達が集まり、彼らはアルゴナウタイ〈アルゴー号の乗組員〉と呼ばれました。そうそうたるメンバーが集まったのは、女神ヘラの助けがあったからです。
〈アルゴー船の遠征〉の始まりです。
→アルゴー船の大冒険[2]ヘラクレスのおき去りと予言者ピーネウス