モロー〈アリオン〉
アリオン、競技会へ参加
アリオンは、コリントスのペリアンドロスの宮廷の音楽家です。ある日、シケリアでの音楽・競技会に出ることをペリアンドロス王に申し出ました。王は弟に話すようにやさしく「そんな考えは捨てて、私のもとにいてくれ。勝利を得ようと争うものは、勝利を失うのだから」と引き止めました。
アリオンは答えました「放浪の生活こそ、詩人の自由な心にはふさわしいものです。神に授けられたこの才能を、ほかの人々にも喜びの源にしてもらいたいのです。また、賞をとることができましたら、私の名が広まり名誉となります」
アリオンの受賞とコリントスへの帰路
アリオンは帰国の船にたくさんの賞品を積んで、帰国の途につきました。風も穏やかな日が続いています。
アリオンは一点の雲もない空に向かって語りかけました。
「ペリアンドロス王よ、もう心配には及びません。うれしい再会と楽しい祝宴が待っていることでしょう」
しかし、アリオンは人間を信じすぎていたのです。水夫たちが自分の賞品を奪うことを話しているのを聞いてしまいました。
水夫たちの反逆とアリオンの願い
水夫たちはアリオンにせめ寄ります「おいアリオン、お前には死んでもらう。おとなしくこの場で死んでくれれば、陸に墓を建ててやろう。でなけば、海に身を投げてくれ、いや放り込んでやる」
アリオンは答えました。
「賞品や金なら、みんなやるよ。それでいいだろ。別に私を殺すことはない」
水夫たちは答えます。
「いや、だめだ。お前を生かしておいたら、ペリアンドロス王に知れ、俺たちは処刑される」
「死ぬしかないなら、最後の望みを聞いてくれないか。吟遊詩人として、自分の臨終の歌をうたわせてくれ。竪琴の音がやんだら、大人しく運命に従うことにしよう」
荒々しい水夫たちがアリオンの願いを聞き入れることはないと思われましたが、彼らは名声あるアリオンの歌を聞きたいと心が動いたのです。
アリオンは言いました。
「では、吟遊詩人の衣服に着がえるから、少しだけ待ってほしい。アポロン神は正装しないと、お力をかしてはくれないからな」
〈アリオン〉イルカが怖い!
アリオン、最後の歌
美しい金と紫の衣装をまとったアリオン。竪琴を手にした朝日を受けて輝いていたその姿に、水夫たちも固唾をのんで沈黙していました。
アリオンは竪琴に歌いかけます。
「私の声の友よ、一緒に冥界へもいこう。私たちならケルベロスさえも鎮められよう。幸福の島エリュシオンに住む英雄よ、私もすぐに仲間入りができよう。
だが、友であるペリアンドロス王を残して死んでしまう、私の嘆きは癒されないであろう。エウリュディケを失ったオルフェウスのように。
私は行かねばなりません。しかし、恐れはしません。神々が天上から見守っていてくださるから。罪もない私を殺そうとするものたちよ、やがて君たちの恐れおののく時がやってくるであろう。さあ、海のニンフ、ネーレーイスよ、私の身をお受けください」
アリオンは、自ら海へ飛び込みました。水夫たちは、これで自分たちの悪事が露見することはないと安心しました。
アリオン、イルカに助けられる
アリオンの歌の調べは、海の生き物たちを引きつけ船の後をつけさせていました。アリオンが海に飛び込むと、1頭のイルカがアリオンを背に乗せたのです。そして、無事に岸辺まで運ばれたのです。
アリオンはイルカにお礼を述べました。
「ありがとう。そして、さようなら。私たちは共にいることも行くこともできない。だが、どうか、海の女王ガラテイアがお前に恩恵を与えてくださいますように」
やがて、この浜辺には、この事件の記念碑も建てられ、長く語り継がれることになります。
アリオン宮殿へ。水夫たちの運命は?
アリオンは竪琴をもち、歌いながら歩いていきます。コリントスの宮殿へ着く頃には、友でもあるペリアンドロス王に会える喜びでいっぱいです。奪われた賞品やお金のことなどすっかり忘れていたほどです。
「友よ、あなたの元に帰ってまいりました。神がお授けくださいました才能は、多くの人々を喜ばせました。しかし、賞品とお金は全て奪われてしまいました」とアリオン。この後、王に水夫たちの悪事やイルカに助けられたことも話しました。
ペリアンドロス王は驚きましたが、アリオンには「悪事は裁かれなければいけない。君はここに隠れていなさい。そうすれが、きっと犯人たちがやってくるだろうからな」
悪事を働いた水夫たちの船が港に着くと、王は彼らを呼び出し尋ねました。
「お前たちは、アリオンの消息を知らないか?」。彼らは答えます「私たちは、あの方を無事にタラスの町に下ろしてまいりました」
そう言いおわらないうちに、アリオンが彼らの前に姿を現わしました。驚いて肝をつぶした水夫たちはふるえ、処刑を覚悟しました
しかし、水夫たちが、死ぬことはなく追放になりました。それは、アリオンが血を求めていなかったからです。
将来の活躍を期待させる新人の演奏家、作曲家等を対象に賞金を授与。また、長期的展望からその芸術活動を支援し、演奏の場の提供、海外研修を目的とした助成をおこなうばあいもあります。公募ではなく選考委員のノミネートにより、候補者が選ばれ、個人では応募ができません。
2013年3月31日をもって、アリオン音楽財団が解散。このため、アリオン賞も2012年の開催をもって終了となり、2013年から桐朋学園へ運営を移管し、アリオン桐朋音楽賞となりました。
N・C・ワイエス〈アリオン〉