シャガール〈イカロスの墜落〉
Contents
テーセウスとアリアドネーのクレタ島逃亡
アテーナイから怪獣ミノタウロスへの生け贄として、クレタ島に差し出されたテーセウス一行(7人の少年と7人の少女)。しかし、テーセウスはミノタウロスを倒して、ラビリンス(迷宮)を脱出しました。
ラビリンスを脱出できたのは、ミーノース王の娘アリアドネーのおかげ。アリアドネーは、クレタ島に着いたテーセウスに一目惚れをしていたのです。
なんとかテーセウスを助けたいと思い、知恵者ダイダロスの助言を得てテーセウスに「ラビリンスからの脱出法」を教えたのです。
「テーセウス様、ラビリンスの入り口にこの糸の端をくくりつけてから、糸を伸ばしながら奥に入ってください。そして、ミノタウロスを倒したら、その糸をたどって出口に戻ってください」
ダイダロスとイカロスの逃亡
ラビリンスに閉じ込められたダイダロスとイカロスの父子
ミノタウロスを倒したテーセウスは、アリアドネーを連れてクレタ島を逃亡しました。ミーノース王は、不審に思いました。
「アリアドネーにそんな知恵があったのか? いや、あのダイダロスが教えたのに違いない!」
ダイダロスはラビリンスの設計者です。ミーノース王の信頼を得ていましたが、こうして王の不興を買い、息子イカロスとともにラビリンスに閉じ込められてしまったのです。
しかし、ダイダロスは知恵者であり優秀な技術者です。
「私は、この大空から逃げてみせよう!」
ダイダロスは、ラビリンスの中で翼を作りはじめました。
ヴァン・ダイク〈ダイダロスとイカロス〉
翼を造るダイダロス、イカロスに飛び方を教える
ダイダロスは小さい鳥の羽はロウでかため、だんだんと大きな羽を糸で結わえていきます。完成した翼をつけ、羽ばたいてみました。すると、体が宙に浮きあがりました。ダイダロスは息子イカロスにも翼をつけさせ、飛び方を教えました。
「イカロスよ。必ず中空を飛ぶのだぞ。低すぎると海の水しぶきで羽が重くなる。高く飛ぶと、太陽の熱でロウが溶けてしまう。まぁ、私についてくれば安心だ」
太陽に近づき過ぎたイカロスの翼は?
ダイダロスとイカロスの父子は、ラビリンスから飛び立ちました。ダイダロスは、たびたび振り返ります。息子がちゃんとついてきているか、確かめるためです。
イカロスは、はじめ父についていくことが精一杯。しかし、しばらくすると空を飛んでいることがたんだん楽しくなってきました。そして、いつのまにか父を見失い、空高く飛んでいたのです。
イカロスの翼は太陽に近づいていくと、ロウが柔らかくなり溶け始めました。羽はバラバラになり、イカロスは、海に真っ逆さまに落ちていきました。
「イカロ〜ス!イカロ〜ス!」
落ちていくイカロスに気づいたダイダロスは大声を出しましたが、もはや手遅れです。
イカロスが落ちた近くの島に遺体を埋めたダイダロスは、その島をイカリア(エーゲ海にある島)と名づけました。その後、ダイダロスはシケリア(イタリアのシチリア島)に行き、ここにアポローンの神殿を建て、その翼を捧げました。
その後のダイダロスとミーノース王の最後
一方、ダイダロスに逃げられたミーノース王は、怒りでモンモンとしていました。が、ついに一計を案じます。
「トリトン貝(巻き貝)に糸を通した者には、賞金を与えよう」
と、近隣の国に布告したのです。〈この難問を解く者はダイダロスしかいない〉と、王は確信してしたのです。
ミーノース王の確信どおり、ダイダロスの回答をえたシケリア王から連絡が入りました。
その回答とは、「貝殻の先端に穴を開け、そこに蜂蜜をぬり、糸を付けたアリをもう片方の穴から這わせて通します」
「ふふふ、してやったり」
喜んだミーノース王はシケリアに乗り込み、ダイダロスの引き渡しを迫りました。
しかし、シケリア王はダイダロスを失いたくありません。そこで、風呂に入っているミーノース王に熱湯をかけ、殺してしまいました。偉大なクレタ文明を作った王のなんともあっけない運命でした。
→ テーセウス物語 前編 父との再会とミノタウロスの生贄に志願
ブリューゲル〈イカロスの墜落のある風景〉