ルドン〈オルフェウス〉
「これが最後のお別れです...」
地上までもう少しでたどり着こうとした時、オルフェウスは冥界の王ハデスの条件を忘れ、妻が付いてきているか心配で振り返ってしまいました。
すると、エウリュディケはたちまち引き戻されていきました。二人は手を伸ばしましたが、もはや触れることさえできません。
「さようなら、これが最後のお別れです...」
「なぜ、振り返ってしまったのか!」
オルフェウスは、7日間スティクス河のほとりで過ごしました。もう、食事も睡眠もとることはできません。毎日、彼は冥界の無慈悲さを歌にし、竪琴の調べにのせて歌いました。生き物や山々は、みな涙を流します。
酒神ディオニュソスの祭日の悲劇
そんなオルフェウスに、トラキアの娘たちは優しく声を何度もかけました。
しかし、彼はエウリュディケ以外の女には見向きもしません。娘たちにつれない態度をとっていたのです。娘たちも、しばらくは彼の仕打ちに我慢をしていました。
ところが、酒神ディオニュソスの祭日に悲劇が起こりました。酔った娘たちは気が大きくなり、我慢の限界を超えると、とうとう興奮して叫びはじめました。
モロー〈オルフェウスの首を運ぶトラキアの娘〉
「あそこに、私たちを侮辱した男がいる!」
娘たちは、手にした槍をオルフェウスに投げつけました。しかし、彼の竪琴が響くと、槍は彼の手前で落ちてしまいます。石を投げても同じです。
すると、娘たちはいっせいに大声を出して、竪琴の音を消しさりました。その瞬間、槍はオルフェウスの胸を貫きます。
さらに興奮した娘たちは、彼の体を八つ裂きにして、頭と竪琴をヘブロス河に投げ入れました。竪琴の上に頭だけのオルフェウス、それでも唄い続けていたということです。
ムーサイ(学芸の女神たち)は、オルフェウスの体を集め、レイペートラに葬りました。それで、この地ではナイチンゲールがとても美しく鳴くのだそうです。また、竪琴はゼウスによって天にあげられ、琴座となりました。
オルフェウスの魂は?
黄泉の国に行ったオルフェウスは、エウリュディケを探し出すとしっかり抱きしめました。もう振り返っても消えることのない彼女をいつも見つめながら、幸せに暮らしているということです。
その二人の姿が、次の絵です。場所は冥界の中にあるとも言われるエリュシオン(楽園)です。
コロー〈冥府のオルフェウス〉