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アガメムノンの使いアングル〈アガメムノンの2人の使い〉

あらすじ

アガメムノンに愛妾ブリセイスを奪われた英雄アキレウスは、怒りに燃えて戦いから身を引くことを決意します。

老将ネストルが仲裁に入るものの争いは収まらず、アキレウスは深い屈辱に沈みます。

海の女神である母テティスは息子の嘆きを聞き、ゼウスに名誉回復を願うことを約束しました。12日後、テティスはゼウスに願い出て、トロイア軍に力を与えるよう求めます。

ゼウスはそれを承諾しますが、これを疑う妻ヘラとの間で激しい言い争いが起こります。やがてヘパイストスが場を和ませ、神々の宴は静かに終わるのでした。

老将ネストル、二人の英雄を諫める

アキレウスは、最後にアガメムノンへ言い放ちました。

「いつの日か、すべてのギリシャの兵士の胸に、このアキレウスの不在を嘆く思いが必ず湧き起こるであろう。
一騎当千のヘクトルの手にかかり、多くの兵士が殺されるとき、あなたがどれほど心を痛めようとも、もはや何の役にも立つまい」

その様子を見かねて、老将ネストルが二人の間に割って入りました。

「なんと情けないことか!
ギリシャ軍の二人の英雄が争っていると知れば、喜ぶのはトロイア軍だけであろう」

ネストルは長い人生の経験を語り、二人をなだめようとしました。
しかし、アキレウスとアガメムノンの怒りは収まらず、ついに軍議は決裂してしまいます。

その後、アガメムノンは二人の使者――タルテュビオスとエウリュバテス――をアキレウスの陣屋へ送りました。

アキレウスは抵抗することなく、親友であり部下でもあるパトロクロスに命じます。
こうして、悲しみに沈むブリセイスは、使者たちに引き渡されることになったのです。

母なる海の女神――テティスの出現

アキレウスは、海辺に座り込み、悶々とした思いに沈んでいました。

そのとき、海の底から母テティスが姿を現します。

「わが子よ、なぜ涙を流しているのです。何があったのですか」

アキレウスは、母にすべてを語りました。

「母上よ、もしあなたにその力があるなら、どうか私を助けてください。

かつて、ヘラ、ポセイドン、そしてアテナまでもがゼウスを縄で縛ろうとしたとき、
ゼウスを助けたのは母上だけであったと聞きました。

そのとき母上は、百の手を持つ怪物ブリアレオスを呼び寄せ、
神々を恐れさせてゼウスを救ったと。

どうかそのことをゼウスに思い出させ、私の名誉を守ってくださるようお願いしていただけませんか」

テティスは、深い悲しみを込めて言いました。

「ああ、アキレウスよ。
お前は短い命と引き換えに栄光を得る運命に生まれながら、
この戦争に参加したばかりに恥辱まで受けてしまった。

私がお前を産んだのは、いったい何のためだったのでしょう」

そして続けます。

「だが、今ゼウスと神々はオケアノスの彼方、エチオピア人の饗宴に招かれている。
12日後には帰ってくる。そのとき私はオリュンポスへ行き、お前の名誉を回復してもらうよう願ってみよう」

そう言うと、テティスは再び海の深みへと帰っていきました。

そのころ、オデュッセウスはクリュセに到着し、アポロン神に盛大な生贄を捧げます。
こうして神の怒りは鎮まり、クリュセイスも父クリュセスのもとへ無事に送り届けられたのでした。

ゼウスとテティス〈ゼウスとテティス〉イリアスの記述と手が逆?

海の女神テティス、ゼウスに願う

やがて十二日が過ぎ、遊宴を終えたゼウスたちはオリュンポス山へ戻ってきました。

その朝早く、テティスはゼウスの前に現れます。

彼女は左手をゼウスの膝に置き、右手でその顎に触れて願いました。

「わが息子アキレウスは、戦利品であった愛妾をアガメムノンに奪われ、その仕打ちによって名誉を失いました。

どうか息子の名誉を救ってください。
その償いがなされるまで、トロイア軍に力を与え、ギリシャ軍が苦しむようにしていただきたいのです」

ゼウスはしばらく沈黙しました。

「なんとも厄介な願いだ。
ヘラが知れば、また騒ぎ立てるに違いない」

しかしやがて、静かに言います。

「だがよい。
わしが頭をうなずくこと、それが最も確かな約束の印だ」

そう言って、ゼウスは重々しく顎を引き、うなずきました。

それを見届けると、テティスは深海の洞窟へ帰っていきました。

※神々の世界では、顎を引いてうなずくことが「承諾」の印。顎を上げて頭をそらすのが「拒否」の印とされています。

オリュンポスの夫婦喧嘩――ゼウスとヘラ

やがてゼウスは館へ戻り、黄金の玉座に腰を下ろしました。
オリュンポスの神々も、その周囲に集まります。

その様子を見たゼウスの妃ヘラは、すぐに問いただしました。

「あなたは、あのテティスと内密に話していましたね。
いったい何を相談していたのですか?」

ゼウスは不機嫌に答えます。

「ヘラよ、わしの考えをすべて知ろうとするな。
いちいち問い詰め、詮索するものではない」

ヘラは鋭く言い返しました。

「私には分かります。
アキレウスの面目を立てるため、トロイア軍に勝たせるとテティスに約束したのでしょう」

ゼウスは怒って言いました。

「くだらぬことを言うな。
そのようなことばかり言えば、わしの心はそなたから離れるばかりだ。

もしわしが雷を振るおうとして、
すべての神々が反旗を翻しても、誰一人わしには敵わぬ」

ヘラは言い返すこともできず、怒りを胸に押し込めて席に着きました。

オリュンポスの神々も黙り込んでしまい、場は重苦しい空気に包まれます。

その沈黙を破ったのは、鍛冶の神ヘパイストスでした。

「母上、どうかお怒りをお鎮めください。
人間のことで父上と争っては、神々も困ります」

そう言うと、彼は盃をヘラに差し出しました。
ヘラは微笑み、盃を受け取ります。

ヘパイストスは神々の間を回り、ネクタルを注いでいきました。

びっこのヘパイストスがひょこひょこと歩く姿を見ると、神々は思わず笑い出し、場の空気はようやく和みました。

やがて日が暮れ、宴は終わります。

神々はそれぞれの館へ帰り、ゼウスが寝所で眠りにつくと、ヘラもそのそばに寄り添いました。

こうしてオリュンポスの夜は静かに更けていったのです。