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ヘクトル〈ヘクトル〉

あらすじ

ギリシャ船団を守る防壁の前で、両軍は激しい戦いを繰り広げていました。

大アイアスと小アイアスが兵士たちを鼓舞する一方、トロイア軍も一歩も退かず攻め続けます。ゼウスは自らの子サルペドンを先頭に立たせ、リュキエ軍を防壁へ突撃させました。

メネステウスは危機を感じて援軍を求め、大アイアスと弓の名手テウクロスが駆けつけます。

双方が互角に戦う中、ゼウスの神意はヘクトルに栄光を与えることでした。ヘクトルは巨大な石を持ち上げて門扉へ投げつけ、防壁の門を打ち破ります。

ついにヘクトルは防壁の内側へ突入し、トロイア軍は歓声とともにその後に続きました。

防壁をめぐる激闘、ギリシャ軍の必死の防戦

ギリシャ船団を守る防壁の上では、大アイアスと小アイアスが兵士たちを叱咤激励していました。二人は防壁の上を行き来しながら声を張り上げ、兵士たちに勇気を与えます。

「諸君、退くな!ここで船を守らねば、すべては終わる!」

トロイア軍もまた一歩も退かず、激しい戦いを繰り広げていました。矢と槍が飛び交い、石が防壁の上から雨のように降り注ぎます。

そのときゼウスは、自らの子であるサルペドンを防壁突破の先頭に立たせました。サルペドンはリュキエ軍を率いる勇将であり、神の血を引く英雄でした。

サルペドンとグラウコス、リュキエ軍の突撃

サルペドンは、同郷の武将グラウコスに声をかけました。

「グラウコスよ、今こそ我らがリュキエ勢の力を見せつける時だ。人々に言わせようではないか。『さすがリュキエの王たちは並みの人ではない』とな」

二人はリュキエの兵を率いて防壁へ突進します。

彼らが攻め寄せた場所を守っていたのは、アテナイの将メネステウスでした。しかし勇敢な彼も、リュキエ軍の猛烈な攻撃を前に身震いします。

そこで彼は使者トウテスを呼び、急ぎ命じました。
「トウテスよ、できるなら両アイアスを呼んできてくれ。勇猛なリュキエ勢が攻め寄せてきたのだ。もしそれがかなわぬなら、大アイアスと弓の名手テウクロスだけでも呼んできてくれ」

この知らせを受けると、テラモンの子である大アイアスと、弓の名手テウクロスの兄弟はすぐに駆けつけました。

すでにそこでは激しい戦いが始まっていました。

攻めるのはサルペドンとグラウコス率いるリュキエ軍。守るのは大アイアス、テウクロス、そしてメネステウス。双方とも一歩も引かず、まさに互角の激戦となりました。

ゼウスの神意、ヘクトルに栄光を与える

しかしゼウスの神意は、今この戦場でヘクトルに最大の手柄を立てさせることでした。

ヘクトルは兵士たちに叫びます。
「奮起せよ、トロイア軍よ!壁を打ち破り、炎々たる猛火を船に放て!」

そのときヘクトルは、二人の男でも持ち上げられないほど巨大な石を抱え上げました。もちろんそれはゼウスが力を与えて軽くしていたからにほかなりません。

ヘクトルはその巨石を門扉へ向かって投げつけました。轟音とともに門は砕け散り、板は四方へ飛び散ります。

その瞬間、ヘクトルは防壁の内側へ躍り込みました。
彼の姿は夜のように不気味で、青銅の武具は暗く光り、その手には二本の槍が握られています。まさに鬼神のごとき形相でした。

このような勢いで門内に突入したヘクトルを、もはや誰も止めることはできません。彼の眼は炎のように燃え上がり、トロイア軍に向かって叫びます。

「続け!防壁を越えて突入せよ!」

トロイア兵たちは歓声を上げながら門へなだれ込みました。

ヘクトル、運命の頂点へ

こうしてついにトロイア軍はギリシャ船陣の防壁を突破しました。

この瞬間こそ、ヘクトルの武勇が最も輝くときでした。
まさに今、彼は戦場の頂点に立っていたのです。

しかしこの栄光の絶頂は、同時に運命が大きく動き始める瞬間でもありました。

悲しいかなヘクトル。
今こそ、あなたの栄光が最も高く輝く時なのです。