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トロイア軍はついにギリシャ軍の船陣を守る防壁と濠の前まで迫りました。
ポリュダマスは戦車では濠を越えられないと助言し、ヘクトルをはじめ多くの将軍が戦車を降りて徒歩で進軍します。
しかしヒュルタコスの子アシオスは戦車のまま突撃し、防壁を守るポリュポイテスとレオンテウスに阻まれて苦戦しました。
そのとき空では大鷲が赤い大蛇をつかんで飛び去り、やがて蛇を落とすという不吉な前兆が現れます。
ポリュダマスはこれを凶兆と読み撤退を勧めますが、ヘクトルは神の約束を信じて聞き入れませんでした。
ゼウスも疾風を起こして彼を後押しし、トロイア軍は歓声とともに防壁へ突き進んでいきます。
トロイア軍、ついにギリシャ防壁へ迫る
トロイア軍はついにギリシャ船陣を守る防壁の前まで迫っていました。
しかしその手前には深い濠が掘られ、両側には鋭く尖った杭がびっしり打ち込まれています。戦車や馬では簡単に越えられる場所ではありませんでした。
この様子を見たポリュダマスが、ヘクトルに提言します。
「ヘクトルよ、将軍たちよ、この濠を馬や戦車で越えようとするのは無謀というものだ。われらは徒歩となり、ヘクトルについて進むべきだと思う」
この言葉を聞くと、ヘクトルは真っ先に戦車から飛び降りました。それに続き、アイネイアスやサルペドンなど名だたる武将たちも次々と戦車を降ります。こうしてトロイア軍は徒歩の隊列を整え、防壁へ向かって進み始めました。
無謀な突撃、ヒュルタコスの子アシオス
しかし一人だけ戦車を降りなかった男がいました。ヒュルタコスの子アシオスです。
彼は戦車を駆って、ギリシャ船陣の左翼へ突進しました。そこを守っていたのはラピタイ族の勇将ポリュポイテスとレオンテウスでした。
二人は高い防壁の上から巨大な石を雨あられと投げ落とします。石はトロイア兵の兜と盾を打ち砕き、多くの兵が倒れました。トロイア軍も弓矢で応戦しますが、防壁の上にいる守備兵を簡単には崩せません。
この光景を見て、アシオスは悲痛な声を上げ、自らの腿を叩きながら叫びました。
「父神ゼウスよ、あなたは嘘をつくのがお好きなようだ。ギリシャ勢がこれほどまでに我らの猛攻を防ぐとは思わなかった。わずかな兵でありながら、撃つか撃たれるかするまで一歩も退かぬとは!」
しかしこの時、ゼウスの関心はただ一つ、ヘクトルの勝利だけに向けられていました。アシオスの嘆きなど、神の耳には届きません。
この勇ましい将軍も、やがて別の戦場でイドメネウスの槍に倒れる運命にあるのです。
不吉な前兆、大鷲と赤い大蛇
ヘクトルとポリュダマスは防壁を破り、ギリシャ船団に火を放とうと意気込んでいました。
そのとき空から一羽の大鷲が舞い降りました。鷲は赤い大蛇を鋭い爪でつかみ、そのまま空を飛んでいきます。
しかし蛇はまだ死んではいませんでした。鎌首をもたげると、鷲の胸と首を激しく打ちつけます。苦しんだ鷲はついに蛇を放し、蛇は両軍の中央へ落ちました。
この光景を見た兵士たちは震え上がりました。
「これはゼウスの前兆に違いない」
予兆を読むポリュダマス、無視するヘクトル
ポリュダマスはヘクトルのもとへ近づき、静かに言いました。
「ヘクトルよ、あなたはいつも私の助言に反対する。しかし私は黙ってはいられない。今見た鷲と蛇の前兆は、われらにとって不吉だ。たとえ防壁を破れたとしても、多くの兵士の死は免れないだろう。今は戦いを控えるべきだ」
しかしヘクトルは鋭く彼を睨みつけました。
「私は気に入らぬ。そなたの頭は狂ったか。ゼウスは私に勝利を約束された。それを忘れよと言うのか。鷲が東から西へ飛ぼうが、そんなことは気にせぬ。
そなたは戦わず一人で退くのも勝手だ。ただし他の兵をそそのかし退却させようとするなら、その命は私の槍で終わるだろう」
こうしてヘクトルは防壁を目指して進み始めました。多くのトロイア兵が歓声を上げながらその後に続きます。
そのときゼウスはイデ山から激しい風を吹き起こしました。砂塵が舞い上がり、ギリシャ船陣の防壁へと吹きつけます。神は明らかにヘクトルへ力を貸していたのです。
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