〈アテナとアレス〉
戦場ではついに神々同士の戦いが始まりました。
軍神アレスはアテナに挑みますが、大石を投げつけられて倒されます。アフロディテもアレスを助けようとしてアテナに打ち倒されました。
一方、ポセイドンはアポロンに戦いを挑みますが、アポロンは神同士の争いを避けて退きます。さらにヘラはアルテミスを打ち負かし、神々の争いは次第に収まっていきました。
その頃、アキレウスはトロイア軍を激しく追撃していました。トロイア軍を救うため、アポロンは勇士アゲノルに力を与えてアキレウスに立ち向かわせます。
しかし最後はアポロンが霧でアゲノルを隠し、自らの幻影でアキレウスを遠くへ誘い出しました。その隙にトロイア軍は城内へ逃げ込むことができました。
目次
アテナとアレス、神々の乱戦
ついに神々同士の戦いが始まりました。その様子を見ていたゼウスは、「まさに我が望むところ」とばかりに高らかに笑ったと伝えられています。
最初に動いたのは軍神アレスでした。アレスはアテナに向かって突進し、槍で女神の持つアイギスの盾を突きます。しかしアテナは冷静でした。後ろへ退くと、地面に転がっていた巨大な黒い石を拾い上げ、勢いよくアレスの首元に投げつけます。
石は見事に命中しました。アレスは大地を揺るがすほどの音を立てて倒れ、手足を大きく伸ばしたまま地面に仰向けになりました。
アテナは言います。
「愚かなアレスよ。私の方がどれほど強いか、まだ分からないのか」
そこへアレスの愛人アフロディテが駆け寄り、彼を助け起こして連れ去ろうとしました。その様子に気づいたヘラが、アテナに声をかけます。
「アテナよ、疫病神のアレスをアフロディテが連れていこうとしている」
アレスはヘラの息子でしたが、その乱暴さゆえにゼウスにもヘラにも嫌われていました。アテナはすぐに二人に近づき、アフロディテの胸を一撃しました。するとアフロディテもアレスも共に倒れ、地面に横たわりました。
ポセイドンとアポロン、戦いを避ける
一方その頃、海神ポセイドンはアポロンに声をかけます。
「アポロンよ、他の神々が戦っているのに、我らだけ何もしないのでは様にならぬ。このままオリュンポスへ帰るつもりか。年長のわしが先に仕掛けるわけにもいかぬ。そちらから来い。
昔のことを覚えているか。我らはトロイア王ラオメドンの頼みで城壁を築いてやった。しかし王は報酬を払わず、我らを侮辱した。それなのに、なぜおぬしはトロイアを助けるのだ」
しかしアポロンは静かに答えました。
「大地を揺るがすポセイドンよ、人間のために神同士が戦うなど愚かなことです。彼らは勝手に戦わせておけばよい」
そう言うとアポロンは戦いを避け、その場を離れようとしました。
すると妹アルテミスが兄を嘲ります。
「なんと情けないこと。兄さんは逃げてポセイドンと戦わないのですか。その弓矢はただの飾りですか」
ヘラとアルテミス、女神の対決
アポロンを罵るアルテミスに、ヘラは冷たく言いました。
「恥知らずの牝犬め。どうして私に戦いを挑もうというのだ。狩りの女神とはいえ、相手を間違えたな。戦い方を学びたいのなら教えてやろう」
そう言うとヘラは左手でアルテミスの両手首をつかみ、右手で弓矢を奪って遠くへ投げ捨てました。そして笑いながら耳のあたりを何度も叩きます。
アルテミスは泣きながらヘラの手を振りほどき、大切な弓矢も拾わずにオリュンポスへ逃げ帰りました。
〈ヘラとアルテミス〉
ヘルメスとレト、戦いを避ける
一方こちらでは、ヘルメスとアポロン・アルテミスの母レトが向き合っていました。
ヘルメスは言います。
「レトよ、私はあなたと戦うつもりはありません。どうぞ神々の前で、私を打ち負かしたと誇ってください」
レトもまた戦う気はなく、地面に散らばった娘アルテミスの弓矢を拾い集めると、そのままオリュンポスへ帰っていきました。
その頃、アルテミスは泣きながら父ゼウスの膝にすがります。ゼウスは娘を優しく抱き寄せて言いました。
「かわいい娘よ、誰がこんな目にあわせたのだ」
もちろんゼウスは、犯人が自分の妻ヘラであることを知っていました。
アルテミスは涙ながらに答えます。
「あなたの奥方が私を叩いたのです。神々が争うことになったのは、みんなあの方のせいです」
こうして神々は、ある者は誇らしげに、またある者は怒りを抱えながらオリュンポスへ戻っていきました。
アポロンの策略、トロイア軍を救う
その頃アポロンはすでにトロイア城内へ忍び込んでいました。このままではアキレウスが城を陥落させてしまうかもしれないと危惧したのです。しかしトロイアはまだ滅びる運命ではありません。
一方アキレウスは、トロイア兵も馬も容赦なく倒し続けていました。城門の上ではプリアモス王がその光景を見て胸を痛めています。
やがてプリアモスは城門を開けさせました。逃げ帰る兵士を城内へ入れるためです。
「だが、よく見張れ。アキレウスが城内へ突入してこないよう注意するのだ」
城門は開かれ、敗走するトロイア軍の退路が確保されました。
アポロンの幻術、アキレウスを誘い出す
トロイア軍を救うため、アポロンは戦場に現れました。そしてアキレウスと戦うか迷っていたアンテノルの子アゲノルに勇気を与えます。
「考えても仕方がない。アキレウスも人間であり不死ではない。今はゼウスの加護を祈り戦え」
決意したアゲノルはアキレウスに叫びました。
「アキレウスよ、トロイアを落とすにはまだ多くの試練が待っている。我らトロイアの勇士がここにいる。おぬしがどれほど強かろうと、ここで最後を迎えるかもしれぬぞ」
そう言って槍を投げました。槍はアキレウスのすね当てに当たり、弾き返されます。
アキレウスが反撃しようとしたその瞬間、アポロンが深い霧でアゲノルを包み込み、戦場から遠くへ逃がしました。そしてアポロンはアゲノルの姿に変身し、クサントス河の方へ走ります。
当然アキレウスはそれを追いかけました。
その隙に、トロイア兵たちは城門の中へと逃げ込むことができたのです。
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