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アキレウス、河神クサントスと河神シモエイス〈アキレウス、河神クサントスと河神シモエイス〉

あらすじ

怒りに燃えるアキレウスはトロイア兵をクサントス河へ追い込み、河の中で次々と討ち倒しました。

河はたちまち血で染まり、彼はパトロクロスの葬儀のために若いトロイア兵12人を捕らえます。

さらに命乞いをする王子リュカオンさえ容赦なく殺しました。この残虐な光景に怒った河神クサントスは、大波を起こしてアキレウスを押し流そうとします。

激しい水流に追い詰められたアキレウスは神に助けを求めました。

やがてポセイドンとアテナが彼を励まし、さらにヘラの命でヘパイストスが火を放って河を焼き、ついに河神は屈します。

こうして戦場では、人間だけでなく神々の争いが始まろうとしていました。

クサントス河での大虐殺

アキレウスはトロイア兵が城内へ逃げ込むことを許しませんでした。彼は軍勢の半数を追い立ててクサントス河へ追い込み、兵たちは次々と河へ落ちていきます。

この時、女神ヘラは濃い霧を立ち込めさせ、逃げるトロイア兵の前を覆ってアキレウスを援護していました。

アキレウスは槍を太刀に持ち替えると、水の中へ躍り込みます。そこでトロイア兵を次々となぎ倒し、河はたちまち血で赤く染まりました。戦場は阿鼻叫喚の地獄と化します。

その最中、アキレウスは後にパトロクロスの葬儀で犠牲にするため、12人の若いトロイア兵を捕らえ、部下に命じて船陣へ送らせました。そしてその時、彼は奇妙な光景を目にします。

再び現れたリュカオン

「ああ、なんという奇怪なことだ」

アキレウスの前に現れたのは、プリアモス王の息子リュカオンでした。彼を捕らえるのはこれで二度目です。リュカオンはすぐにアキレウスの膝にすがり、命乞いをしました。

「アキレウスよ、どうか情けをかけてくれ。以前、あなたは私を果樹園で捕え、レムノス島へ売り飛ばした。その時、あなたは牛百頭分の価値の金を得たはずだ。

その後、親族が三倍の身代金を払ってくれ、私は12日前にようやくトロイアへ帰ってきたばかりなのだ。それなのにまたあなたに捕まるとは。

私の兄ポリュドロスはすでにあなたに討たれた。どうか私だけは殺さないでくれ。私はヘクトルと同じ母の子ではないのだから」

しかしアキレウスは冷酷に答えました。
「愚か者め。パトロクロスが死んだ以上、トロイア人を一人たりとも許すわけにはいかぬ。この私とて、やがてここで死ぬ運命にあるのだ」

そう言うとアキレウスはリュカオンを刺し殺し、その遺体をクサントス河へ投げ込みました。

河神クサントスの怒り

この残虐な光景を見ていたのが河神クサントスです。彼はアキレウスの殺戮を止め、どうにかトロイア兵を守ろうと考えていました。しかしその間にも、アキレウスは兵を殺し続けます。

その中には河神アクシオスの子アステロパイオスもいました。彼を倒すと、アキレウスは高らかに言います。

「河神の子であろうとも、ゼウスの血を引く者と争うのは容易ではない。ゼウスの子アイアコス、その子ペレウスの子、それがこの私だ。すべての河、海、泉の神、そして大河オケアノスでさえ、ゼウスの雷には恐れをなすのだ」

ついにクサントスは怒りました。
「アキレウスよ、おぬしの残虐さは人間の限度を越えている。私の美しい流れは死体で埋まり、海へ流れることさえできぬ。もうこれ以上殺すのはやめよ。私は呆れ果てている」

しかしアキレウスは答えます。
「河の神よ、言いたいことは分かった。しかし私は止めぬ」

河神の怒涛、アキレウスを襲う

クサントスはアポロンに向かって言いました。
「アポロンよ、ゼウスはトロイアを守れとお前に命じたのではなかったのか」

しかしアポロンは何も答えません。

やむなくクサントスは大波を起こし、アキレウスに殺された兵士たちの死体を岸へ押し上げました。さらに巨大な波を巻き起こしてアキレウスを包み込みます。

アキレウスは足を踏みしめることもできず、渦巻く水流から必死に逃れようとしました。しかし波はどこまでも追いかけ、彼を押し流そうとします。

ついにアキレウスは悲痛な声で叫びました。
「ゼウスよ、なぜどの神も助けてくださらぬのか。私は波の中で死ぬ運命なのか。私はアポロンの矢か、どこかの勇士の槍で死ぬはずではなかったのか」

ポセイドンとアテナ、英雄を励ます

その時、ポセイドンとアテナが人間の姿で現れ、アキレウスに語りかけました。
「アキレウスよ、恐れてはならぬ。河の怒りはやがて鎮まる。トロイア兵を城門の中へ追い込むまで戦いをやめてはならぬ。そなたはヘクトルを倒してから船陣へ戻る運命なのだ。われらがそのように導こう」

この言葉に勇気を得たアキレウスは平野へ向かって進みます。しかしクサントスはさらに怒りを募らせ、大波で彼を襲いました。

そしてクサントスは隣の河神シモエイスに呼びかけます。
「シモエイスよ、力を貸してくれ。このままではアキレウスがトロイアを滅ぼしてしまう。砂利と泥で彼を埋め、ここを墓にしてしまおう」

二柱の河神は力を合わせ、巨大な波でアキレウスを押し流そうとしました。ついにアキレウスは身動きが取れなくなります。

ヘラとヘパイストス、炎で河を退ける

ルーベンス作ヘパイストスルーベンス〈ヘパイストス〉

それを見たヘラは息子ヘパイストスに命じました。
「息子よ、アキレウスを救え。炎を燃え上がらせ、河を焼き尽くすのだ。私が合図したら止めなさい」

ヘパイストスは火を起こしました。炎は激しく燃え上がり、川岸の木々を焼き、水は蒸発して流れは止まりました。

苦しんだクサントスは叫びます。
「ヘパイストスよ、私はあなたと戦うつもりはない。もうやめてくれ。私はトロイア人を守るためではなく、死体で川が塞がれたから怒ったのだ」

そしてヘラにも懇願しました。
「ヘラよ、どうかこの火を止めてほしい」

ヘラは息子に命じます。
「もうよい、火を止めなさい」

ヘパイストスが火を消すと、川は再び穏やかな流れを取り戻しました。

しかしこの出来事をきっかけに、ついに神々同士の争いが始まろうとしていたのです。