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アキレウスの凱歌〈アキレウスの凱歌〉

あらすじ

女神アテナはヘクトルの弟デイポボスに化け、ヘクトルにアキレウスとの一騎打ちを決意させます。

ヘクトルは遺体を互いに返す約束を提案しますが、アキレウスはそれを拒み戦いが始まりました。

槍を投げ合った後、ヘクトルは助けを求めて振り向きますが、そこにデイポボスの姿はなく、神に欺かれたことを悟ります。

それでも逃げずに戦う覚悟を決めたヘクトルでしたが、アキレウスは武具の隙である喉を突き、ついに倒しました。

死に際に遺体の返還を願うヘクトルの願いも拒まれ、アキレウスは遺体を戦車で引き回します。その光景を見た妻アンドロマケは悲しみに倒れ、トロイアの英雄の最期を嘆きました。

アテナの策略、デイポボスに化ける

女神アテナはアキレウスのそばに近づき、静かにささやきました。
「アキレウスよ、今こそ一騎打ちをさせてやろう。もはやアポロンを恐れることはない」

アキレウスは走るのをやめ、槍を地面に突き立てるとそれにもたれかかりました。その間にアテナはヘクトルの弟デイポボスの姿に変身し、ヘクトルのもとへ近づきます。

「兄者よ、私も来たぞ。ここで共にアキレウスと戦おうではないか」

ヘクトルは喜んで答えました。
「おお、デイポボスよ。私のために出てきてくれたのか」

二人はアキレウスの前に進み出ます。するとヘクトルは戦いの前に提案しました。
「アキレウスよ、どちらが討たれようとも武具を剥ぎ取るのはよい。しかし遺体だけはそれぞれの家族に返すと誓おうではないか」

しかしアキレウスは冷酷に言い放ちます。
「そんな約束はありえぬ。狼と羊の間に誓いがないのと同じだ。今こそ、ヘクトルよ、槍の腕前を示してみろ。もはや逃げ場はない」

そう言うやいなや、アキレウスは槍を投げました。ヘクトルは身をかがめてこれをかわします。槍は彼の背後の地面に突き刺さりました。

その瞬間、アテナが誰にも気づかれぬよう槍を引き抜き、再びアキレウスの手に戻しました。

運命の一撃、ヘクトルの最期

ヘクトルは叫びました。
「アキレウスよ、外したな。今度は私の槍を受けてみよ」

ヘクトルの槍はアキレウスの盾の中央に当たりましたが、強固な盾に弾き返されてしまいます。ヘクトルはデイポボスにもう一本槍を求めようと振り向きました。しかしそこには誰の姿もありません。

その時ヘクトルは悟りました。
『神々が私の死を決めたのだ。デイポボスに化けて私を欺いたのはアテナだったのだ』

それでも彼は覚悟を決めます。
『もはや逃げぬ。せめて華々しく戦って死のう』

ヘクトルは太刀を抜き、アキレウスへ突進しました。アキレウスは槍を構えながら冷静に相手を見つめます。ヘクトルの身につけている武具は、かつて自分のものであり、パトロクロスに貸したものでした。

その武具は体をほとんど覆っていましたが、ただ一箇所だけ隙があります。首の喉元です。

アキレウスはその一点を狙い、槍を突き立てました。槍はヘクトルの喉を貫きます。ヘクトルは大きな音を立てて仰向けに倒れました。

ヘクトルの最後の言葉

瀕死のヘクトルは弱々しい声で言いました。
「アキレウスよ、おぬしの父母にかけて頼む。どうか私の遺体をトロイアへ返してくれ」

しかしアキレウスは答えます。
「私の父母の名を出して哀願するな。おぬしの両親がどれほど莫大な身代金を積もうとも、私は遺体を返さぬ」

ヘクトルは最後の力を振り絞って言いました。
「やはりそうか。だが覚えておけ。やがておぬしも死ぬ。アポロンの矢によって」

そう言い残すと、ヘクトルは息絶えました。

アキレウスの残酷な勝利

アキレウスはヘクトルの武具を剥ぎ取り、戦車に乗せました。するとギリシャ軍の兵士たちは次々と集まり、倒れたヘクトルの遺体を槍や太刀で突きました。

やがてアキレウスはヘクトルの両足のくるぶしに穴をあけ、紐を通して戦車に結びつけます。そして戦車を走らせ、城壁の周りを引きずり回しました。

城壁の上では、プリアモス王とヘカベ王妃が絶望に泣き叫びます。トロイアの民もまた悲嘆に暮れました。

アンドロマケの嘆き

卒倒するアンドロマケアビル〈卒倒するアンドロマケ〉

その頃、ヘクトルの妻アンドロマケは城内の館にいて、まだ夫の死を知りませんでした。しかし外の騒ぎに胸騒ぎを覚え、召使いたちとともに城門へ向かいます。

そして城壁の上から見たのは、アキレウスの戦車に引きずられる夫の遺体でした。

アンドロマケはその場で気を失って倒れます。やがて意識を取り戻すと、激しく泣き叫びました。

「ヘクトルよ、私はなんという不幸な女なのでしょう。生まれてこなければよかった。私たちの息子アステュアナクスは、これからどんな運命をたどるのでしょうか」

こうしてトロイア最大の英雄ヘクトルは倒れ、アキレウスの怒りはついに宿敵を討ち取ったのでした。

※後にトロイアが陥落した時、幼いアステュアナクス(本名スカマンドリオス)は城壁から投げ落とされて殺される運命にあります。