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アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオスルニョー〈アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス〉

パトロクロスの義憤!

「パトロクロスよ、どうしたのだ、小娘のように涙を流して。何か私に伝えたいことでもあるのか」

「どうかアキレウスよ、気を悪くしないでください。ギリシャ勢を襲った苦難は、それほど激しいものなのです。だから、今あなたが抱いている怒りなど忘れてほしい。

神のお告げか、ゼウスの伝言を母神テティス様があなたに告げたのか、そのため今はじっと動かないのか。

ならば、私にミュルミドネス勢を貸していただき、即刻戦場に送ってください。また、あなたの武具も貸してください。きっとギリシャ勢は、つかのまでも息をつけます。トロイア勢はあなたが出陣したと恐れ、引き上げるかもしれません」

アキレウスの忠告

「ゼウスの伝言を母から聞いたわけでもない。アガメムノンから正当な扱いを受けなかったから、怒っているだけだ。しかし、いつまでも怒っているわけにはいかぬ。

パトロクロスよ、そなたは私の武具をつけ、ミュルミドネス勢を率いて戦場に向かってくれ。しかし、これから言うことはしっかり肝に銘じてくれ、忘れるでないぞ。

いったん敵を船陣から駆逐したなら、すぐ引き上げてこい。調子に乗って、トロイアの城門まで追撃してはならぬ。オリュンポスの神々の誰か、とりわけアポロンが介入してくる恐れがある」

パトロクロス立つ!

この頃には、すでにトロイア勢がついに船に火を放ち、たちまち火炎が船を覆っていきます。

アキレウスはパトロクロスに命じます。
「立て、パトロクロスよ。燃え盛る火が見える。船が消失すれば、我らが逃げる道がなくなってしまう。急ぎ武具をつけよ。兵は私が集める」

パトロクロスはアキレウスの武具をつけると、槍2本を手にしました。しかし、槍はアキレウスの槍ではありません。アキレウスの槍は、アキレウスしか扱えないからです。

そして、信頼厚いアウトメドンに馬をつなげるよう命じます。アウトメドンは、不死の駿馬クサントスとバリオスを戦車につなぎます。控えとして名馬ペダソスも添えましたが、この馬は不死ではありません。

アキレウス、ミュルミドネス勢に出陣を命じる

第一隊 メネスティオス(河神スペルケイオスの子)
第二隊 エウドロス(ヘルメスの子)
第三隊 ペイサンドロス(槍の使い手)
第四隊 老ポイニクス(アキレウスの守役)
第五隊 アルキメドン

全隊は緊密に隊列を組み、その先頭に立つのはパトロクロスとアウトメドン。

アキレウスは大切にしまっていた杯を取り出すと、
「大神ゼウスよ、戦友を戦場に送り出します。何とぞ彼に栄誉を授け、その胸に勇気を与えてください。彼が船陣からトロイア勢を追い払ったら、無事に帰還させてください」

ゼウスは最初の願いは聴き入れましたが、最後の願いは拒否しました。

パトロクロスの活躍

パトロクロスとミュルミドネス勢は、戦場に到着するとすぐにトロイア軍に襲いかかりました。

「ミュルミドネス勢よ、男らしく振る舞え。己の武勇を思い出せ。ペレウスの子であるアキレウスの名を輝かせよう。そうすれば、アガメムノンも自らの過ちに気付くだろう」

トロイア軍はアキレウスの姿を見て驚き、戦列が乱れました。パトロクロスは槍をトロイア軍の中央に投げ込み、敵将ピュライクメスの右肩を貫きました。トロイア軍は恐れおののき、船陣から後退し始めました。

パトロクロスが火を消すと、ギリシャ軍の将たちも勢いを増し、それぞれが敵将を討ちました。

トロイア軍の中でただ一人、ヘクトルは戦況の不利を悟りながらも、アイアスと対峙し立ち止まっています。

しかし、ついに戦車で濠を渡ったものの、濠の中に取り残された味方を助けることはできませんでした。濠を越えたトロイア軍は、城門に向かって引き返しました。

ゼウスの子リュキエ王サルペドン

パトロクロスは、ヘクトルを討ち取ろうと決意しましたが、ヘクトルには追いつけませんでした。敵の先頭部隊を切り裂きながら、必死に城門に向かって逃げる多数の敵を打ち倒していきます。

これを見ていたゼウスの子サルペドンは、自軍を叱責します。
「恥を知れ、リュキエ勢よ。どこへ逃げていく。今こそ戦わねばならない時だ。あの男には私が立ち向かう。あの男が何者か知りたい」

こう言うと、サルペドンは地に飛び降りました。パトロクロスも戦車を降ります。

これを見ていたゼウスは、
「ヘラよ、悲しいことじゃないか。我が子サルペドンがパトロクロスに討ち取られる運命にある」

ヘラは、無情に答えます。
「所詮は死すべき人間。命運が定まった者を死から救おうと考えるのですか。ですが、サルペドンを助けるならば、他の神々も我が子を救おうとするに違いありません。彼がパトロクロスに打たれた後、〈死〉と〈眠り〉の神に命じ、故郷リュキエの国に運ばせてやりなさい」

ゼウスは異を唱えず、雨のしずくを降らせました。

ゼウスの子サルペドン、死す

パトロクロスの槍は、サルペドンの従者トラシュメロスを突き刺しました。サルペドンが投げた槍はパトロクロスに当たらず、名馬ペダソスに命中しました。アキレウスの戦車の馬三頭のうち、この馬のみが死すべき運命でした。

双方、もう一度槍を投げ合います。パトロクロスには当たらず、サルペドンの胸に槍が突き刺さり、地面に倒れました。

サルペドンは息を引き取る前に、同郷のグラウコスに告げました。
「グラウコスよ、私の武具をギリシャ勢に奪われないよう、守ってくれ……」