〈天界の戦いよりアテナ〉
オデュッセウスはテレマコスや忠臣たちとともに、老父ラエルテスの屋敷を訪れます。
果樹園で働く父に近づいたオデュッセウスは、はじめは身分を隠して語りますが、父の深い悲しみを見て真実を明かしました。
20年ぶりの再会に父子は抱き合い、やがて仲間たちとも合流します。一方、町では求婚者たちの親族が復讐のために武装して進軍していました。
両者が激突しようとしたその時、女神アテナの導きによってラエルテスが敵の指導者を討ち取ります。
戦いが激しくなる中、ゼウスの雷が落ち、アテナが争いを止めました。
こうして両者は和解し、イタケは再びオデュッセウスの治める国として平和を取り戻したのです。
老父との再会 ― オデュッセウスとラエルテス
オデュッセウスはテレマコス、豚飼いエウマイオス、牛飼いピロイティオスを連れ、老父ラエルテスの屋敷へ向かいました。
屋敷には、家事をしている老ドリオスの妻が一人いるだけでした。
果樹園に着くと、オデュッセウスは三人に屋敷へ行くよう指示し、自分は父に帰国を明かすべきか、それとも父の様子を確かめるため試してみるべきか思案します。
果樹園では、ラエルテス自身が土を耕していました。
オデュッセウスは近づき、またしても作り話を始めます。
「ここがイタケの国なのか教えてほしい。というのも、昔、オデュッセウスというイタケの王をもてなしたことがあるのだ。彼が帰るときには、財宝をたくさん、さらに女を四人も贈ったのだが……」
老父は涙を流しながら答えました。
「ここはイタケで間違いない。もしオデュッセウスがここにおれば、そなたに同じような贈り物をしたであろう。だが、それはかなわぬ。今この国は無法者どもが横行しているのでな。
ところで、おぬしがオデュッセウスをもてなしたのは何年前のことじゃ。その客は、わしのせがれだ。いまだ帰っておらぬ。おそらく死んでおるのだろうが、はっきりしないゆえ、葬いも出してやれぬのだ」
父の嘆き ― ついに明かされる真実
オデュッセウスが作り話を続けると、老父はうめきながら黒い土をつかみ、頭に振りかけました。
その痛ましい姿を見て、オデュッセウスの胸は張り裂けそうになります。
もうこれ以上、作り話を続けることはできませんでした。
「父上、私です。どうか嘆くのはおやめください。
ついに二十年目に帰国し、ならず者の求婚者どもを討ち果たしてきました。今、事態は急を告げています」
老父は息をのんで言います。
「まことか……。ならば証拠を見せてくれ」
そこでオデュッセウスは、
- 猪の白い牙でつけられた足の傷
- 父から教わったブドウや梨の木の話
- 将来任せると言われていた果樹園のこと
を語りました。
それを聞いたラエルテスは力が抜けたように膝をつき、
オデュッセウスはその体をしっかりと抱きしめました。
二人は果樹園のそばの屋敷へ戻り、テレマコスたちと合流します。
やがて老ドリオスとその息子たち七人も駆けつけてきました。
求婚者の親族、復讐を誓う
そのころ、噂の女神ペーメーが、求婚者たちの悲惨な死を町中に伝え回っていました。
求婚者の親族たちは遺体を埋葬すると、集会場に集まります。
アンティノウスの父エウペイテスが叫びました。
「オデュッセウスはなんと大それたことをしたのだ。
海の向こうへ逃げる前に仕返しをせねば、我ら一族の永遠の恥となる。
すぐに報復に出かけようではないか!」
そのとき、テレマコスの助言で助命された伝令使メドンが口を開きました。
「オデュッセウス王は、神に背いてこのことをしたのではありません。
私は、メントルの姿をした神が、オデュッセウス王のそばに立っているのを二度も見ました。確かなことです」
神の名を聞くと、集会場の者たちは蒼白になります。
すると老予言者ハリテルセスが言いました。
「皆の者よ、こうなったのは、わしや老メントルが『息子たちの卑劣な行いを止めさせよ』と言ったのに、おぬしたちが聞かなかったからだ。
オデュッセウスは帰らぬと決めつけ、その財産を食い荒らし、妻を奪おうとした。
その罪の報いなのだ。だから報復など考えるな」
しかし、多くの者はエウペイテスに従い、武具を身に着けて出発しました。
神々の裁き ― アテナとゼウス
そのとき、女神アテナは父ゼウスに尋ねました。
「父上、この先は苦難の戦いとなるのでしょうか。それとも和解でしょうか」
ゼウスは答えます。
「娘よ、そもそもこの件はそなたが始めたことではないか。
好きなようにすればよい。だが、わしの望みは和解だ。
イタケがオデュッセウスのもとで末長く幸せな国となることだ」
その言葉を聞くと、アテナは稲妻のような速さでオリュンポス山を駆け下りていきました。
最後の戦いと和解
やがて両軍は向かい合います。
オデュッセウス側は
- ラエルテス
- テレマコス
- 豚飼いエウマイオス
- 牛飼いピロイティオス
- ドリオスの一家七人
総勢十二人。
人数は少ないものの、士気は高く燃え上がっていました。
そこへメントルの姿となったアテナが現れ、ラエルテスに言います。
「そなたはわしの友だ。父神ゼウスと姫神アテナに祈り、槍を投げよ」
女神は彼に凄まじい力を与えました。
ラエルテスの槍は一直線に飛び、エウペイテスの兜を貫きます。
敵の先鋒はたちまち動揺しました。
そこへオデュッセウスたちが突撃し、次々となぎ倒します。
そのとき――
女神アテナが叫びました。
「イタケの人々よ! 今すぐ戦いをやめよ!
流血の惨事を避けるのだ!」
しかしオデュッセウスは、まだ戦意を失った敵へ突進しようとします。
その瞬間、
ゼウスの雷がアテナの前に落ちました。
アテナは言います。
「オデュッセウスよ、争いをやめよ。
さもなくば、ゼウスのお怒りを招くことになる」
こうして両陣営は和解し、
永く守るべき固い誓いが交わされました。
『オデュッセイア』終
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