※本ページにはプロモーションが含まれています。

天界の戦いよりアテナ〈天界の戦いよりアテナ〉

オデュッセウスと老父ラエルテスの再会

オデュッセウスはテレマコス、豚飼い、牛飼いを連れて、老父ラエルテスの屋敷に向いました。

屋敷には家事をする老ドリオスの妻が一人いるだけでした。オデュッセウスは果樹園に着くと、三人に屋敷に行くよう指示。自身は、帰国したことを話したほうがいいか、父親を試して情報を得たほうが良いか思案していました。

果樹園では、ラエルテス自身が土を耕しています。オデュッセウスは近づき、また作り話を父にしはじめました。

「ここはイタケであるのか教えて欲しい。それと言うのも、昔オデュッセウスというイタケの王をもてなしたことがあるのだ。彼が帰る時にはたくさんの財宝、女も四人贈ったのだが……」

老父は涙を流し答えました。
「ここはイタケで間違いない。オデュッセウスがおれば、同じような贈り物をそなたにしたであろう。しかし、それはかなわぬ。今は無法者が治めているのでな。

ところで、おぬしがそオデュッセウスを客としてもてなしたのは何年前のことじゃ。その客は、わしのせがれだ。まだ帰国しておらぬ。もう、死んでいるのであろうが、はっきりしないので葬いも出してやれぬ」

老父ラエルテスの呻き

オデュッセウスが作り話を続けると、父は呻きながら黒い土を手にし、頭に振りかけます。その姿に、オデュッセウスの胸は高まり、作り話はもうできません。

「父上、私です。嘆くのはおやめください。やっと20年目に帰国し、ならず者の求婚者らを討ち果たしてまいりました。今は、風雲急を告げています」
「まことか! なれば、証拠を言ってくれ」

オデュッセウスは猪の白い牙でつけられた足の傷、かつて老父が教えてくれたブドウや梨の話、将来やると言った果樹園のことなどを話しました。老父はへなへなと膝をつき、オデュッセウスはその体をしっかりと抱きしめます。

二人は果樹園のそばの屋敷に向かい、テレマコスと豚飼い、牛飼いと合流しました。その後、妻からの知らせで老ドリオス一家7人も駆けつけてきました。

求婚者の親族、決起する!

この頃、噂の女神ペーメーが求婚者らの不運な死を町中に伝え回っていました。求婚者の親族は遺体を運び出し埋葬し、集会場に集まりました。アンティノウスの父エウペイテスは弁じます。

「オデュッセウスは、なんと大それたことをしでかしたことか。彼が海の向こうに逃げる前に仕返しせねば、家代々の恥辱である。早速、報復に出かけようではないか!」

その時、テレマコスの助言で生き残った伝令使メドンが、忠告しました。
「オデュッセウス王は神に背いて、このようなことを企てたのではない。なぜなら、私はメントルの姿になったある神がオデュッセウス王のそばに立っていたのを二回も見たのだ。確かだ」

神と聞いて、集会場の全員は蒼白となりました。すると、過去も未来も見通すことのできる老雄ハリテルセスが口を開きました。

「よいか皆の衆、こうなったのは、せがれどもに『卑劣な行いを止めさせよ』と言ったわしや老雄メントルの言葉に、そなたたちが従わなかったからだ。オデュッセウスがよもや帰るまいと思って、その財産を食い荒らし、その貴婦人を娶ろうとした大罪を犯したのだ。だから、報復に出かけるのはやめることだ」

しかし、大半の者どもはエウペイテスに従い、武具に身にまとうと出かけて行きました。

アテナとゼウス

アテナが父ゼウスに問いました。
「父上、この先は苦難の戦いか和解か、どうお考えなのでしょうか」

「娘よ、そもそもこの件はそなたが考え出したことであろう。思い通りにするがよい。だが、わしの考えは、和解してイタケはオデュッセウスのもとに末長く幸せな国にすることじゃ」

ゼウスに促されて、女神アテナは脱兎のごとく、オリュンポス山を駆けおりていきました。

最後の決戦と和解

今まさに両陣営は相対しています。オデュッセウス側は老父ラエルテスとテレマコス、豚飼い、牛飼い、ドリオスの一家7人の総勢12人。少数であるが、士気は盛んです。そこへ、メントルに姿を変えたアテナが現れ、ラエルテスに言います。

「そなたは、わしの一番の友、父神ゼウスと姫神アテナに祈願をこめ、槍を投げよ!」
女神は彼に凄まじい力を与えました。投げた槍は、見事エウペイテスの兜を貫きました。これに怯んだ敵の先鋒に、オデュッセウスたちは襲いかかり、なぎ倒していきます。

この時、女神アテナは叫びました。
「イタケの人よ! 今は戦いを止め、即刻引き分けて流血の惨事を避けよ」

オデュッセウスは、すでに戦意喪失している敵に襲いかかろうとしていました。この時、ゼウスが雷電を女神の前に落としました。

「オデュッセウスよ、争いは止めよ。さもなくば、ゼウスのお怒りを買うかもしれぬぞ」
と、女神はオデュッセウスに言いました。

こうして、両陣営の間にいつまでも守るべき堅き誓いが交わされました。

(オデュッセイア 終)