ギリシャ神話には数多くの女神が登場しますが、その中でも特に重要なのが、天界・海・冥界をそれぞれ統べる三人の妃——ヘラ、アムピトリテ、ペルセポネです。
彼女たちは、それぞれ大神ゼウス、海神ポセイドン、冥界の王ハデスというの妻でありながら、単なる「夫の妃」にとどまらず、神話世界に大きな影響を与えています。
嫉妬深き天界の女王ヘラ、謎に包まれた海の妃アムピトリテ、そして冥界の静かなる女王ペルセポネ——彼女たちの物語は、神話の中でも特に魅力的なエピソードに満ちています。
本記事では、それぞれの神話に焦点を当て、ギリシャ神話の世界における三大女神の役割と個性を詳しく解説します。
天界ゼウスの王妃〈嫉妬深い〉ヘラ
ヘラには、「嫉妬深い」というイメージがついています。ゼウスが浮気をするたびに彼女は怒りますが、その怒りはゼウスではなく、浮気相手やその子供たちに向けられました。
例えば、エウロペやイーオーは過酷な運命を強いられ、ヘラクレスは本来ならミュケーナイ王となるはずでしたが、ヘラの策略によりエウリュステウスに王座を奪われます。
また、レトがアポロンとアルテミスを産む時、ヘラは「日の光の下で出産を許すな」と全世界に命じました。その結果、レトは不安定な浮島であるデロス島でしか産むことができませんでした。
しかし、そんなヘラにも、美しい乙女の時代があったのです……。
〈トロイア戦争時、ゼウスを誘惑するヘラ〉
海神ポセイドン王妃アムピトリテ
「ポセイドンの妃は誰?」と聞かれても、すぐに答えられる人は少ないでしょう。
彼には複数の妃がいましたが、アムピトリテはギリシャ神話に登場する機会が少ない存在です。
実は、アムピトリテは「トリトンの母」として知られています。手塚治虫の漫画『海のトリトン』を覚えている人も多いでしょう。しかし、ギリシャ神話のトリトンは、可愛いキャラクターではなく、むしろ怪物のような存在です。
また、エチオピア王妃カシオペアが「私やアンドロメダの美しさには、海のニンフですら敵わない」と発言したことで、ポセイドンは怒り、怪物ケートスを送り込みます。明記されてはいませんが、この怪物はアムピトリテが飼っていた可能性もあります。
彼女が登場する神話はほとんどありませんが、絵画や彫刻では多く描かれています。
→海神ポセイドンと妃アムピトリテの恋をつないだのは…まさかのイルカ⁉︎
〈アムピトリテとポセイドン〉
冥界ハデス王妃ペルセポネ
ペルセポネの神話といえば、ハデスに誘拐された話が有名です。しかし、それ以外の場面では彼女の存在感は薄く、登場しても冥界の王座に黙って座っていることがほとんどです。
オルフェウスが冥界へと訪れた際も、彼女は一言も発しませんでした。
実は、ペルセポネがハデスに攫われた背景には、美の女神アフロディテの意地悪があったと言われています。彼女は息子エロスに、「ペルセポネもアテナやアルテミスのように恋愛を軽んじている」と告げ、ハデスに恋の矢を射させました。こうして、恋に狂ったハデスは、彼女を冥界へと連れ去ったのです。
母であるデメテルの悲しみの旅は語り継がれていますが、ペルセポネ自身の心情はあまり語られません。しかし、彼女が唯一怒りをあらわにした神話が存在します。
>>ミミズクの話とペルセポネを海まで探し回ったセイレーンたち
オルフェウスとハデスとペルセポネ
ギリシャ神話の天・海・冥界を統べる三大女神[まとめ]
天界・海・冥界という三つの領域を象徴する女神——ヘラ、アムピトリテ、ペルセポネ。
それぞれの物語を振り返ると、彼女たちは単なる「夫の妃」ではなく、神話世界のバランスを保つ重要な存在だったことがわかります。
ヘラはゼウスの正妻として天界を支配し、時に怒りをあらわにしながらも神々の秩序を守りました。アムピトリテは海の女王として静かにその領域を司り、ペルセポネは冥界の王妃として、死と再生の象徴となりました。
三大女神の物語を知ることで、ギリシャ神話の世界がさらに奥深く感じられることでしょう。