※本ページにはプロモーションが含まれています。

キュクロプス〈キュクロプス〉

『オデュッセイア』に登場するキュクロプス

『オデュッセイア』第9歌のテーマを〈サチュロス劇〉にしたのはエウリピデスです。しかし、『オデュッセイア』には、半人半獣の老人シレノスとその仲間は登場しません。

また、悲劇の途中で演じられるため、かなり下品なサチュロス族を登場させ、観客を笑わせています。ここでは、酒を飲んだシレノスの下品な言葉や仕草は省略しています。
(ぜひ、原作を読んで楽しんでください)

オデュッセウスたちが漂流して到着した島は、一つ目巨人族であるキュクロプスが住んでいるシシリー島(シチリア島)です。

そして、オデュッセウスたちが水と食料を求めて訪れた洞窟には、ポセイドンの子であるキュクロプス族の一人であるポリュペモスが住んでいました。

エウリピデス作キュクロプス』①
コロス(合唱隊)=半人半獣の老人シレノスとサチュロス族
コロスとは?
ギリシャ悲劇における合唱隊で、物語の補足説明や感情の表現を担当します。物語の背景や登場人物の心情を伝え、合唱やダンスを通じて観客に物語の重要な要素を伝えます。

サチュロス族の老人シレノス

[エトナ山のふもと。キュクロプスの住居・洞窟の前]

サチュロス族

〈サチュロス族〉

(サチュロス族の老人シレノス、登場)

シレノス
嫉妬なさったゼウスの妃ヘラ様が海賊どもをけしかけて、バッコス様を遠国に売り飛ばそうとなさってる、と聞きましたので、探しに出かけた我ら。嵐にあって、このエトナ山の近くに打ち上げられたわけです。
ここにはポセイドンの子たち、人食い一つ目巨人族が住んでいました。その一人ポリュペモスに捕まってしまったのが運のつき、奴隷にされている身です。
年取ったわしは、洞窟の掃除と食事番。わしの息子と若いやつらは山で羊番。ほれ、息子らが歌いながら帰ってきた。

コロス
しっ しっ! ここがいやなのか?
露に光ったこの丘が?
さあおいで さあおいで!
羊を飼って野山で暮す
一つ目小僧の洞窟の門をふたする大石を
そうれ 投げてやろうかい。

お懐かしいバッコス様、
どこへひとり旅をなさっていらっしゃる
黄金の髪をなびかせながら?
あなたにお仕えするわたくしどもは
このなさけない山羊の皮を着て
一つ目のキュクロプスに使われておりまする。
お懐かしいあなたからも
ふるさとからも遠くはなれて。

シレノス
おい、静かに。羊を洞窟に入れるよう言いつけろ。
コロスの長
(手下に)連れていけ! 何を慌てているのです。
シレノス
ギリシャの船が海岸に見えるのです。指揮者と水夫がこちらに向かってくる。空の容器を担いでいるので、水と食料が欲しいのでしょう。
気の毒なことです。ここの主ポリュペモスがいかに残酷か知らぬようです。一つ目の餌食になろうとは、運の悪い話ですね。

オデュッセウス達、キュクロプスの洞窟に

(オデュッセウス、水がめと食糧入れを担いだ部下たち登場)

オデュッセウス
サチュロスの皆さん、ここはバッコス様の国でしたか。イタケから来たオデュッセウスと申します。
水を汲める川の場所を教えていただけませんか。また、食料も分けていただければありがたいのですが。
シレノス
オデュッセウスさん、知ってるぞ。抜け目のないおしゃべりだとか。どこからやってきた?
オデュッセウス
トロイアから。嵐に流されてしまいました。ここはどこで、どんな人々が住んでいるのですか?
シレノス
ここはエトナの山のふもと、シシリーで一番高いところです。また、人は住んでいません。一つ目族が洞窟に住んでいます。
彼らの食料は乳とチーズ、羊の肉だけです。それと、旅人の肉が一番おいしいと言っています。
オデュッセウス
なんですと。人間の肉を食べるのが好きなのですか!
シレノス
ここに来た人間で助かった者はいません。今山に出かけているので、助かったと言えるかもしれませんね。

酒神バッコスの子マロンの神酒

オデュッセウス
我々を逃してくれませんか。食料も分けてくださらないか?その代わりに、バッコス様の神酒を差し上げます。
シレノス
嬉しい言葉だ。もう酒はずいぶん飲んでいないからな。
オデュッセウス
バッコス様のお子、マロン様がくださった酒ですぞ。
シレノス
マロン様?この腕に抱いてお育てした、おお、懐かしい。
オデュッセウス
この革袋に入っています。
シレノス
これっぽっちか!
オデュッセウス
いやいや、いくら飲んでも、その2倍は残っているという革袋ですよ。盃もあります。(酒を注ぎ、シレノスの鼻先に)どうです?
シレノス
これは、これは、なんという豊潤な香り!
オデュッセウス
では、チーズと子羊を分けてください。
シレノス
ありとあらゆる羊に変えても、この一杯が飲みたかったものだ。
もう、主人のことなど構うことはない。キュクロプスの阿呆どもには、吠えづらかいてもらいましょう。

(シレノス、洞窟の中へ入る)

コロスの長
もしもし、オデュッセウス殿。トロイアを攻め落として、ヘレネを取り返したのは本当ですか?
オデュッセウス
本当だ。プリアモス王の一族はことごとく滅ぼした。
コロスの長
ヘレネとも、代わるがわるやったのでしょう。男を変えて喜ぶ女ですからな。操なんて、これっぽっちもない!
だいたい、女なんてものはいない方がましというもの。

キュクロプス、帰ってくる

(シレノス、チーズと羊を担いで現れる)

シレノス
オデュッセウス殿、チーズと羊でございます。さっさとこの洞窟から、立ち去られるべきですな。し、しまった!帰ってきたぞ。

(キュクロプス、洞窟の前にやってくる)

オデュッセウス
ご老人、どこへ逃げればよいのでしょうか?
シレノス
洞窟の奥へ、見つからずにすむかもしれません。
オデュッセウス
なんと、罠の中へ飛び込むようなものではないか!
シレノス
洞窟は広い。隠れる場所はそこら中にあります。
オデュッセウス
なんと、トロイアの大群を滅ぼしたのに、たった一人の敵を恐れて逃げることになるとは。さぞかし、トロイアが泣くでしょう。
死ぬ時が来たら、立派に死んでみせましょう。誉は傷つけたくないものですからな。

(オデュッセウスと部下、シレノス、少し後からキュプロス洞窟の中へ)